1.7 対数和不等式
前節で相対エントロピーの非負性を得た.次節ではもう一段進んで「相対エントロピーは粗くまとめると減る」ことを示したいのだが,その心臓部だけを先に,確率とは無関係な純粋な不等式として切り出しておく.そうしておくと,次節の証明が一行で済む.
切り出す形はこうである.非負の𝑎𝑖と正の𝑏𝑖に対し,「比をまとめてから測る」より「個別に測って足す」ほうが大きい.𝑎𝑖を「真の重み」,𝑏𝑖を「想定の重み」と思えば,前節の𝐷(𝑝 ‖ 𝑞) ≥0で総和 1 という縛りを外し,𝑛個の項に分けて述べたものにあたる.
定理 1.7.1(対数和不等式). 非負𝑎𝑖と正𝑏𝑖(𝑖 =1,…,𝑛)に対し,𝑎𝑖 =0の項は0log(0/𝑏𝑖) =0,∑𝑖𝑎𝑖 =0のときは左辺を 0 と約束すると
(∑𝑖𝑎𝑖)log∑𝑖𝑎𝑖∑𝑖𝑏𝑖≤∑𝑖𝑎𝑖log𝑎𝑖𝑏𝑖.等号は,すべての比𝑎𝑖/𝑏𝑖が等しいときに限る.
これは𝑡 ↦𝑡log𝑡の凸性(= 補題 1.1.8 の𝜑 = −𝑡log𝑡の狭義凹性)を,重み𝑏𝑖つきで述べ直したものである.情報不等式や,相対エントロピーが「まとめる」操作で減ること(次節のデータ処理不等式の心臓部)が,この一枚から従う.
なぜ「まとめると減る」に効くのかを見ておこう.左辺は𝑎𝑖たちと𝑏𝑖たちをそれぞれ足し合わせてから比を測った量,右辺は𝑖ごとに比を測ってあとから足した量である.不等号の向きは,まとめたほうが小さい,すなわち𝑖の区別を捨てると差が見えにくくなることを言っている.𝑖を「写像𝑓で同じ値に潰される点たち」だと思えば,これがそのまま次節の「𝑓で粗くまとめると相対エントロピーは減る」になる.等号がすべての比𝑎𝑖/𝑏𝑖が等しいときに限る,というのも符合する:潰される点たちが真の重みと想定の重みを同じ割合で持っているなら,潰しても情報は失われない.
証明. 𝑏 :=∑𝑖𝑏𝑖 >0とおき,𝜆𝑖 :=𝑏𝑖/𝑏(∑𝑖𝜆𝑖 =1,𝜆𝑖 ≥0),𝑡𝑖 :=𝑎𝑖/𝑏𝑖 ≥0とする.凸関数𝜓(𝑡) :=𝑡log𝑡(補題 1.1.8 の𝜑 = −𝑡log𝑡の凹性の符号反転)に対する有限 Jensen は,補題 1.1.9 を−𝜓に適用して符号を返したものである.これは重み𝜆𝑖・点𝑡𝑖に対し
𝜓(∑𝑖𝜆𝑖𝑡𝑖)≤∑𝑖𝜆𝑖𝜓(𝑡𝑖)(†)を与える.両辺を具体的に計算する.重心は∑𝑖𝜆𝑖𝑡𝑖 =∑𝑖𝑏𝑖𝑏 ⋅𝑎𝑖𝑏𝑖 =∑𝑖𝑎𝑖𝑏なので,左辺は
𝜓(∑𝑖𝑎𝑖𝑏)=∑𝑖𝑎𝑖𝑏log∑𝑖𝑎𝑖𝑏.右辺は
∑𝑖𝜆𝑖𝜓(𝑡𝑖)=∑𝑖𝑏𝑖𝑏⋅𝑎𝑖𝑏𝑖log𝑎𝑖𝑏𝑖=1𝑏∑𝑖𝑎𝑖log𝑎𝑖𝑏𝑖.( †)の両辺を𝑏倍すると,𝑏 =∑𝑖𝑏𝑖より
(∑𝑖𝑎𝑖)log∑𝑖𝑎𝑖∑𝑖𝑏𝑖≤∑𝑖𝑎𝑖log𝑎𝑖𝑏𝑖.等号は補題 1.1.9 の等号条件(𝜓は狭義凸)より,正の重みをもつ𝑡𝑖 =𝑎𝑖/𝑏𝑖がすべて等しいときに限る.◼
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