1.4 条件付き相互情報量
1.3 節の相互情報量は「𝑋と𝑌が共有する情報」を測った.実際の場面では,すでに何かを知っている状態からこれを問いたいことが多い.たとえば受信語𝑌から送信語𝑋を推定するとき,途中の中継点𝑍の値をすでに握っているなら,そのうえで𝑋と𝑌がなお共有している情報はいくらか,という問いになる.そこで,条件𝑍 =𝑧ごとに相互情報量を測り,𝑍の分布で平均した量を導入する.これは次節のチェイン則で,変数を 1 個ずつ足したときの「増分」として現れる主役でもある.
定義
条件𝑍 =𝑧を固定すると,(𝑋,𝑌)の分布は条件付き同時分布𝑝(𝑥,𝑦 ∣𝑧)に,周辺分布は𝑝(𝑥 ∣𝑧),𝑝(𝑦 ∣𝑧)に置き換わる.この分布に定義 1.3.1 をそのまま適用したものを𝐼(𝑋;𝑌 ∣𝑍 =𝑧)と書く:
𝐼(𝑋;𝑌∣𝑍=𝑧)=∑𝑥,𝑦𝑝(𝑥,𝑦∣𝑧)log𝑝(𝑥,𝑦∣𝑧)𝑝(𝑥∣𝑧)𝑝(𝑦∣𝑧).これを𝑍の分布で平均する.
定義 1.4.1(条件付き相互情報量).
𝐼(𝑋;𝑌∣𝑍)=∑𝑧𝑝(𝑧)𝐼(𝑋;𝑌∣𝑍=𝑧)=∑𝑥,𝑦,𝑧𝑝(𝑥,𝑦,𝑧)log𝑝(𝑥,𝑦∣𝑧)𝑝(𝑥∣𝑧)𝑝(𝑦∣𝑧).
条件付きエントロピー(定義 1.2.2)が「各𝑦ごとのエントロピーを平均したもの」だったのとまったく同じ作り方である.𝑍 =𝑧ごとに「そのもとでの同時分布が,そのもとで独立だったらどうだったか,からどれだけ隔たっているか」を測り,𝑍で平均している.
この量は「𝑍をすでに知っている人から見て,𝑋と𝑌はまだどれだけ結びついて見えるか」である.𝑍を知ることで結びつきが説明しつくされていれば 0 になり,𝑍を知ってもなお残る結びつきがあれば正になる.
増減の向きは決まらない. 𝐼(𝑋;𝑌 ∣𝑍)は𝐼(𝑋;𝑌)より小さいとは限らない.条件を付けると相互情報量は増えることも減ることもある.
- 減る例:公平なコイン𝑊を投げ,𝑋も𝑌も𝑍もすべて𝑊の値そのものとする.𝑋と𝑌は完全に一致しているので𝐼(𝑋;𝑌) =log2 >0.しかし𝑍を知れば𝑋も𝑌も確定してしまい,そのうえで共有すべき不確かさは残らないので𝐼(𝑋;𝑌 ∣𝑍) =0.𝑋と𝑌の結びつきが𝑍を通じてしか生じていない状況では,一般にこうなる(1.8 節でマルコフ連鎖として定式化する.定義 1.8.3).
- 増える例:𝑋,𝑌を独立な公平コイン,𝑍 :=𝑋 ⊕𝑌(排他的論理和)とする.𝑋と𝑌は独立なので𝐼(𝑋;𝑌) =0.しかし𝑍を知ってしまえば𝑋から𝑌が完全に決まるので𝐼(𝑋;𝑌 ∣𝑍) =log2 >0.「共通の結果を知ると,原因どうしが結びついて見える」という現象である.
したがって「条件を増やせば情報は減る」という言い方は誤りである.減るのはエントロピー(定理 1.2.4)であって,相互情報量ではない.
記法の先取り. 1.6 節の相対エントロピー𝐷( ⋅ ‖ ⋅)を使えば,各𝑧の項は𝐷(𝑝(𝑥,𝑦 ∣𝑧) ∥ 𝑝(𝑥 ∣𝑧)𝑝(𝑦 ∣𝑧))と書ける.本節はこの記法を使わない.
基本性質
命題 1.4.2. 𝐼(𝑋;𝑌 ∣𝑍) ≥0.また𝐼(𝑋;𝑌 ∣𝑍) =𝐼(𝑌;𝑋 ∣𝑍)(対称性).さらに𝐼(𝑋;𝑌 ∣𝑍) =0は,𝑝(𝑧) >0である各𝑧について
𝑝(𝑥,𝑦∣𝑧)=𝑝(𝑥∣𝑧)𝑝(𝑦∣𝑧)が成り立つこと(𝑍を与えたとき𝑋と𝑌が 条件付き独立 であること,記号で𝑋 ⟂𝑌 ∣𝑍)と同値である.
証明. 各項𝐼(𝑋;𝑌 ∣𝑍 =𝑧)は,条件付き分布𝑝( ⋅, ⋅ ∣𝑧)に対する定義 1.3.1 の相互情報量そのものである.したがって命題 1.3.2 より𝐼(𝑋;𝑌 ∣𝑍 =𝑧) ≥0で,非負の項を非負の重み𝑝(𝑧)で平均した𝐼(𝑋;𝑌 ∣𝑍)も非負.対称性も同様に,各𝑧で命題 1.3.3 が成り立つことから従う.
等号条件も各𝑧に還元する.非負の項を正の重み𝑝(𝑧)で平均した和が 0 になるのは,𝑝(𝑧) >0の各𝑧で𝐼(𝑋;𝑌 ∣𝑍 =𝑧) =0となるとき,かつそのときに限る.そして命題 1.3.2 の等号条件により,それは条件付き分布𝑝( ⋅, ⋅ ∣𝑧)のもとで𝑋と𝑌が独立であること,すなわち上の積の形にほかならない.◼
エントロピー表現
定理 1.4.3.
𝐼(𝑋;𝑍∣𝑌)=𝐻(𝑋∣𝑌)−𝐻(𝑋∣𝑌,𝑍).無条件版(定理 1.3.4)の𝐼(𝑋;𝑍) =𝐻(𝑋) −𝐻(𝑋 ∣𝑍)を,すべて「𝑌を知ったうえで」に読み替えたものである.
本節の量が「𝑌を知っている人の世界での相互情報量」であることが,この等式で確認できる.𝑌を知っている人にとって𝑋の不確かさは𝐻(𝑋 ∣𝑌)であり,そこへさらに𝑍を教えると𝐻(𝑋 ∣𝑌,𝑍)まで下がる.その下がり幅が𝐼(𝑋;𝑍 ∣𝑌)である.定理 1.3.4 の「𝑌を知って減る𝑋の不確かさ」という読みが,そのまま条件付き版でも通用する.
左辺が非負(命題 1.4.2)であることから𝐻(𝑋 ∣𝑌,𝑍) ≤𝐻(𝑋 ∣𝑌)が読み取れるので,この等式は 1.2 節の条件付けの単調性(定理 1.2.4)の別証明にもなっている.
証明. 定義 1.4.1 の各𝑦ごとの項で,被加数の対数比を𝑝(𝑥,𝑧 ∣𝑦) =𝑝(𝑥 ∣𝑦,𝑧) 𝑝(𝑧 ∣𝑦)を使って書き換えると
log𝑝(𝑥,𝑧∣𝑦)𝑝(𝑥∣𝑦)𝑝(𝑧∣𝑦)=log𝑝(𝑥∣𝑦,𝑧)𝑝(𝑥∣𝑦).これを𝑝(𝑧 ∣𝑦)および𝑝(𝑦)で重みづけて和をとると,重み𝑝(𝑦) 𝑝(𝑥,𝑧 ∣𝑦) =𝑝(𝑥,𝑦,𝑧)により
𝐼(𝑋;𝑍∣𝑌)=∑𝑥,𝑦,𝑧𝑝(𝑥,𝑦,𝑧)log𝑝(𝑥∣𝑦,𝑧)−∑𝑥,𝑦,𝑧𝑝(𝑥,𝑦,𝑧)log𝑝(𝑥∣𝑦).第 1 項は定義 1.2.2 によりちょうど−𝐻(𝑋 ∣𝑌,𝑍).第 2 項は𝑧について先に和をとると∑𝑧𝑝(𝑥,𝑦,𝑧) =𝑝(𝑥,𝑦)なので−∑𝑥,𝑦𝑝(𝑥,𝑦)log𝑝(𝑥 ∣𝑦) = −𝐻(𝑋 ∣𝑌),符号を込めて+𝐻(𝑋 ∣𝑌).合わせて𝐼(𝑋;𝑍 ∣𝑌) =𝐻(𝑋 ∣𝑌) −𝐻(𝑋 ∣𝑌,𝑍).◼
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