定常性を置いたので,「1 文字あたりの不確かさ」を定義する用意ができた.自然な候補は二つある.長さ
以下,上付きの
定義 3.2.1(ブロックエントロピーとエントロピーレート). 定常情報源
で定める.極限
が存在するとき,それぞれを情報源の エントロピーレート と呼ぶ.
形式化: ブロックエントロピー blockEntropy,増分 conditionalEntropyTail,エントロピーレートentropyRate (ソース)
例 3.2.2(i.i.d. 情報源のエントロピーレート). i.i.d. 情報源では,補題 2.3.3 より
補題 3.2.3. 任意の情報源
証明(
第 1 項に帰納法の仮定を当てると
形式化: blockEntropy_eq_sum_conditionalEntropyTail,証明の 1 段分にあたるblockEntropy_succ_chain_rule (ソース)
この分解に定常性は使っていない.エントロピーのチェイン則だけで出るからである.定常性が効くのは次の補題である.
分解が言っているのは,ブロックを一気に読むかわりに 1 文字ずつ読んでいったときの,不確かさの増分の足し合わせだ,ということである.
補題 3.2.4. 定常情報源では,数列
証明. 非負性は,条件付きエントロピーが非負量の平均であることによる(定義 1.2.2 と命題 1.1.4).
非増加を見る.条件付けの単調性(定理 1.2.4)を
である.定常性(定義 3.1.1,
証明で使ったのは二手だけである.条件を一つ減らすと不確かさは増えない(あるいは同じ),というのが一手目.減らして残ったものが,時計をずらせば元の問題そのものになる,というのが二手目である.定常性が効くのはこの二手目だけで,そこがなければ「
読み方は素直である.過去を長く見せられるほど,次の 1 文字は当てやすくなる.ただしどこまでも下がり続けるわけではない.非負なので底がある.その底こそが,情報源の「どうしても残る 1 文字あたりの不確かさ」である.
補題 3.2.4 で片方の極限は片付いた.もう一方の
補題 3.2.5(Cesàro 平均). 実数列
証明.
と分ける.第 2 項は
定理 3.2.6(エントロピーレート定理). 定常情報源では
は両側とも存在して等しい.
証明. 補題 3.2.4 より数列
補題 3.2.3 より
形式化: 極限の存在 entropyRate_exists_of_stationary,二つの定義の一致entropyRate_eq_lim_condEntropy (ソース)
二つの定義が一致することの意味. 左辺は「長いブロックを丸ごと符号化したときの1 文字あたりの費用」で,第2章の圧縮の言葉である.右辺は「次の 1 文字がどれだけ読めないか」で,予測の言葉である.定理 3.2.6 は,圧縮の限界と予測の困難さが同じ数だと言っている.橋渡しをしているのは Cesàro 平均で,証明はそれ以上のことを何もしていない.増分が落ち着けば,その平均も同じところに落ち着く,というだけである.最初の何文字かは記憶が浅いぶん不確かさが大きいが,
両端で確かめる. i.i.d. なら増分は最初から一定
形式化上の注記. entropyRate は「収束するならその極限」を返す形で定義されており,定義の時点では収束を要求しない.極限が実際に存在することは entropyRate_exists_of_stationary が別に述べ,その値が条件付きエントロピーの極限に一致することを entropyRate_eq_lim_condEntropy が述べる.本文が定義 3.2.1 で「存在するとき」と断って定理 3.2.6 で存在を示したのと,同じ二段構えである.
単位は本文と違う.形式化は本章を通じてentropyRate₂ として別に定義されている.
InformationTheory — 形式化検証つき情報理論教科書(レビュー版).数式は MathJax + AMS Euler で事前レンダリング.