11.1 型と型類
公平なコインを𝑛回投げて,出た1の割合がちょうど0.9になる確率は,𝑛が増えるとどれだけ速く落ちるだろうか.この落ちる速さを指数で書き下すことが本章の主題であり,その指数には相対エントロピーが現れる.手がかりは第2章にある.第2章は長さ𝑛の系列を,確率という一つの数だけで分類した.定義 2.2.1 の典型集合がそれで,そこに入る確率が1に近づくこと(定理 2.2.3)と,要素数がおよそ2𝑛𝐻であること(定理 2.2.5)の二つから,圧縮の限界が出た.ところがこの分類は粗く,まったく違う構成の系列どうしが同じ集合に入りうる(例 2.4.2).2.4 節はその粗さを埋めるために,各文字の出現回数を直接見る強典型性へ移り,そこで系列𝑥の型(経験分布)を 定義 2.4.1 で置いた.本章はこの型による分類を最後まで押し進める.
型で分類すると,二つの勘定が立つ.一つは,長さ𝑛の系列を型で類別したときの類の個数であり,これは𝑛の多項式で抑えられる.もう一つは,一つの類に入る系列の個数であり,こちらは指数で増えて,その指数は類の型のエントロピーになる.本節はこの二つを示す.類の個数が多項式でしかないことは,あとで有限個の項の和を最大の項一つで置き換えるときに効く.というのも,多項式倍の差は1𝑛logをとると消えるからである.この道具立てを型の方法と呼ぶ.めったに起きない事象の確率が𝑛とともにどれだけ速く落ちるか(大偏差),二つの分布のどちらが真かを当てる問題(仮説検定)で誤りがどれだけ速く落ちるか,本章が問うのはこの二つである.
本章ではlogの底を自然対数にとり,エントロピーと相対エントロピーの単位をナットで測る.型類の要素数や確率が𝑒𝑛𝐻(𝑃),𝑒−𝑛𝐷(𝑃‖𝑄)の形で書けるところが本章の眼目なので,指数と対数の底がそろっていると式が読みやすい.第2章が底を2にとって2𝑛𝐻と書いたのに対し,単位の名前が変わるだけである.
以下,アルファベットX上の長さ𝑛 ≥1の系列を𝑥 =(𝑥0,…,𝑥𝑛−1) ∈X𝑛と書く.X上の分布𝑃に対し,各成分が独立に𝑃に従う長さ𝑛のブロックの分布を𝑃𝑛と書く.すなわち𝑃𝑛({𝑥}) :=∏𝑛−1𝑖=0𝑃(𝑥𝑖)とし,部分集合𝐴 ⊆X𝑛については𝑃𝑛(𝐴) :=∑𝑥∈𝐴𝑃𝑛({𝑥})とする(第6章が通信路の𝑛回の使用を𝑊𝑛と書いたのと同じ,肩に長さを乗せる書き方である).また本章では,最適化して選んだものに星印を付け,分布には⋆を,値には∗を使い分ける.対数が狭義単調増加であること(補題 8.2.5)は,以下ことわりなく使う.
定義
定義 11.1.1(型と型類). Xを空でない有限アルファベット,𝑛 ≥1とする.系列𝑥 ∈X𝑛に含まれる文字𝑎の個数を𝑁(𝑎 ∣𝑥)(定義 2.4.1)と書き,𝑥の 型 を
ˆ𝑃𝑥(𝑎):=𝑁(𝑎∣𝑥)𝑛(𝑎∈X)で定める.X上の分布𝑃が 長さ𝑛の型 であるとは,ˆ𝑃𝑥 =𝑃となる𝑥 ∈X𝑛が存在することをいう.長さ𝑛の型𝑃に対し,その 型類 を
T𝑛(𝑃):={𝑥∈X𝑛:ˆ𝑃𝑥=𝑃}で定める.
ˆ𝑃𝑥は,系列𝑥を一度ばらばらにして,どの文字が何回出たかだけを残したものである.順序の情報は捨てられているので,𝑥の並べ替えはすべて同じ型を与える.値は非負で,∑𝑎𝑁(𝑎 ∣𝑥) =𝑛だから総和は1であり,ˆ𝑃𝑥は確かにX上の分布である.定義 2.4.1 が名前だけ与えていたこの分布に,本章は記号を与えたことになる.長さ𝑛の型がとる値は0,1/𝑛,2/𝑛,…,1に限られる.すなわち𝑛を固定すると,分布のうちごく一部だけが型として現れる.
型類T𝑛(𝑃)は,型がちょうど𝑃である長さ𝑛の系列の全体である.どの𝑥もただ一つの型をもつので,長さ𝑛の型すべての型類はX𝑛を重なりなく覆う.またˆ𝑃𝑥 =𝑃は「各文字𝑎について𝑁(𝑎 ∣𝑥) =𝑛𝑃(𝑎)」と同じことだから,型類は文字ごとの個数を指定して切り出した集合でもある.とくに𝑃が長さ𝑛の型なら𝑛𝑃(𝑎)はどの文字でも非負整数である.
例 11.1.2(長さ3の二値系列). X ={0,1},𝑛 =3とし,ˆ𝑃𝑥とT3( ⋅)を 定義 11.1.1 のとおりとする.分布を(𝑃(0),𝑃(1))の形で書くと,長さ3の型はちょうど
(1,0),(23, 13),(13, 23),(0,1)の4個である.系列(𝑥0,𝑥1,𝑥2)を𝑥0𝑥1𝑥2と並べて書くと,型類はこの順に
T3(1,0)={000},T3(23, 13)={001, 010, 100},T3(13, 23)={011, 101, 110},T3(0,1)={111}であり,要素数は1,3,3,1である.
証明. 長さ3の系列𝑥について𝑁(1 ∣𝑥)は0,1,2,3のいずれかであり,𝑁(0 ∣𝑥) =3 −𝑁(1 ∣𝑥)だから,型ˆ𝑃𝑥は𝑁(1 ∣𝑥)だけで決まる.𝑁(1 ∣𝑥) =𝑗に対応する型は,𝑗 =0,1,2,3の順に上の4個である.上の並びはX3の8本を𝑁(1 ∣𝑥)の値で分けたものであり,どの型類も空でないから,4個はすべて長さ3の型であって,型はちょうど4個である.要素数は並びを数えて順に1,3,3,1である.◼
型が4個なのに対し,系列は23 =8本ある.一般のアルファベットと一般の𝑛で型がいくつあるかを,次に数える.
型は多項式個しかない
命題 11.1.3. Xを空でない有限アルファベット,𝑛 ≥1とする.長さ𝑛の型(定義 11.1.1)の個数は(𝑛 +1)|X|以下である.
証明. 𝑃を長さ𝑛の型とすると,ˆ𝑃𝑥 =𝑃となる𝑥 ∈X𝑛があり,各文字𝑎について𝑃(𝑎) =𝑁(𝑎 ∣𝑥)/𝑛である.したがって𝑃は,個数の組(𝑁(𝑎 ∣𝑥))𝑎∈Xを𝑛で割ったものとして書ける.個数𝑁(𝑎 ∣𝑥)は0以上𝑛以下の整数だから,文字ごとに𝑛 +1通りの値しかとれず,組は全部で(𝑛 +1)|X|通り以下である.異なる型は異なる組を与えるので,型の個数もこれ以下である.◼
この数え方は粗い.個数の組の総和が𝑛でなければならないという条件を使っておらず,型にならない組まで数えている.それでも以降の評価に入るのは𝑛の多項式なので,1𝑛logをとる水準では消える.系列のほうはX𝑛の要素数|X|𝑛だけあり,𝑛とともに指数で増える.本節の残りは,一つの型類がどれだけ大きいかを数える.
型類の中では確率が一定である
型が分かると,その系列の確率まで決まってしまう.長さ𝑛のブロックの確率が文字ごとの確率の積であり,同じ文字については何回出たかだけが効くからである.次の命題はその値を書き下したものである.
命題 11.1.4. Xを空でない有限アルファベット,𝑛 ≥1とし,𝑄をX上の全点で正の分布,𝑄𝑛をその𝑛重の積分布とする.𝑃を長さ𝑛の型(定義 11.1.1),𝑥 ∈T𝑛(𝑃)とすると
𝑄𝑛({𝑥})=exp(−𝑛(𝐻(𝑃)+𝐷(𝑃‖𝑄)))である.ここで𝐻は 定義 1.1.1 のエントロピー,𝐷は 1.6 節の相対エントロピーである.
証明. 𝑄𝑛({𝑥}) =∏𝑛−1𝑖=0𝑄(𝑥𝑖)の積を,同じ文字ごとにまとめる.文字𝑎は𝑥にちょうど𝑁(𝑎 ∣𝑥)回現れ,𝑥 ∈T𝑛(𝑃)より𝑁(𝑎 ∣𝑥) =𝑛𝑃(𝑎)だから
𝑄𝑛({𝑥})=∏𝑎∈X𝑄(𝑎)𝑁(𝑎∣𝑥)=∏𝑎∈X𝑄(𝑎)𝑛𝑃(𝑎)である.𝑄は全点で正だからどの因子も正で,対数をとると
log𝑄𝑛({𝑥})=𝑛∑𝑎∈X𝑃(𝑎)log𝑄(𝑎)になる(𝑃(𝑎) =0の文字では因子が𝑄(𝑎)0 =1であり,右辺の項も0である).
右辺の和を𝑃自身の対数を経由して書き直す.𝑃(𝑎) >0の文字では
𝑃(𝑎)log𝑄(𝑎)=𝑃(𝑎)log𝑃(𝑎)−𝑃(𝑎)log𝑃(𝑎)𝑄(𝑎)であり,𝑃(𝑎) =0の文字では,𝑄(𝑎) >0と0log0 =0の約束(定義 1.1.1)により三つの項がすべて0である.𝑎について足すと,第1項の和は−𝐻(𝑃),第2項の和は𝐷(𝑃 ‖ 𝑄)だから
log𝑄𝑛({𝑥})=−𝑛(𝐻(𝑃)+𝐷(𝑃‖𝑄))となる.両辺の指数をとれば主張を得る.◼
右辺に𝑥が現れないことが,この命題の言っていることのすべてである.型類の中の点はどれも同じ確率をもち,しかもその確率は,型のエントロピーと,型が𝑄からどれだけ隔たっているかの二つだけで決まる.第2章の経験エントロピーは−1𝑛log𝑝(𝑥)という一つの数だったが,命題 11.1.4 の指数は𝐻(𝑃)と𝐷(𝑃 ‖ 𝑄)の二つに分かれている.この分かれ方を 定義 2.1.1 の言葉に戻したものが 系 11.1.9 である.
系 11.1.5. Xを空でない有限アルファベット,𝑛 ≥1とし,𝑃を長さ𝑛の型(定義 11.1.1),𝑃𝑛をその𝑛重の積分布とする.𝑥 ∈T𝑛(𝑃)とすると𝑃𝑛({𝑥}) =𝑒−𝑛𝐻(𝑃)である(𝐻は 定義 1.1.1 のエントロピー).とくにT𝑛(𝑃)の点はどれも同じ確率をもつ.
証明. 𝑃𝑛({𝑥}) =∏𝑛−1𝑖=0𝑃(𝑥𝑖)を同じ文字ごとにまとめると,𝑥 ∈T𝑛(𝑃)より𝑁(𝑎 ∣𝑥) =𝑛𝑃(𝑎)だから∏𝑎𝑃(𝑎)𝑛𝑃(𝑎)である.𝑃(𝑎) =0の文字では𝑛𝑃(𝑎) =0なので因子は1であり,積は𝑃(𝑎) >0の文字だけをわたる.その対数は𝑛∑𝑎:𝑃(𝑎)>0𝑃(𝑎)log𝑃(𝑎)であり,0log0 =0の約束(定義 1.1.1)のもとでこれは−𝑛𝐻(𝑃)に等しい.両辺の指数をとれば等式を得る.右辺は𝑥に依らないから,後半も従う.◼
型類の要素数は多項係数である
型類は文字ごとの個数を指定して切り出した集合だった(定義 11.1.1).したがってその要素数は,位置を文字ごとに割り振る割り振り方の数であり,組合せの数として書き下せる.
命題 11.1.6. Xを空でない有限アルファベット,𝑛 ≥1とし,𝑃を長さ𝑛の型(定義 11.1.1)とすると
∣T𝑛(𝑃)∣=𝑛!∏𝑎∈X(𝑛𝑃(𝑎))!である.
証明. 𝑃は長さ𝑛の型だから,どの文字でも𝑛𝑃(𝑎)は非負整数であり,その総和は𝑛である.T𝑛(𝑃)の系列は,位置の全体{0,1,…,𝑛 −1}を,各文字𝑎に大きさ𝑛𝑃(𝑎)の集合を割り当てて重なりなく分ける分け方と1対1に対応する(割り当てた位置にその文字を書けばよい).Xの文字に順番を付け,先頭の文字から順に,まだ使っていない位置の中から必要な個数を選んでいくと,選び方の総数は二項係数の積になり,約分すると主張の右辺になる.◼
右辺の分母は,同じ文字どうしの並べ替えを打ち消す因子である.例 11.1.2 で数えた1,3,3,1は,この式のX ={0,1},𝑛 =3の場合であり,たとえば型(23,13)では3!/(2! 1!) =3になる.要素数がこの形で書けると,二つの型類の重さを比べるのは階乗の比を比べることになる.
いちばん重いのは自分の型類
命題 11.1.4 は一点の確率を与えた.型類全体の確率は,これに要素数を掛けたものである.要素数の指数評価に移る前に,𝑃𝑛で測ったときどの型類がいちばん重いかを見ておく.型類はX𝑛を重なりなく覆い,その個数は多項式で抑えられる(命題 11.1.3)から,全体の確率1のうち多項式の逆数ぶんは,いちばん重い型類が担っている.どれがいちばん重いかをここで決めておけば,系 11.1.5 で確率を要素数に読み替えて 定理 11.1.8 の下界が出る.
補題 11.1.7. Xを空でない有限アルファベット,𝑛 ≥1とする.𝑃と𝑃′を長さ𝑛の型(定義 11.1.1),𝑃𝑛を𝑃の𝑛重の積分布とすると
𝑃𝑛(T𝑛(𝑃′))≤𝑃𝑛(T𝑛(𝑃))である.
証明. まず型類全体の確率を書き下す.長さ𝑛の型˜𝑃をとると,𝑥 ∈T𝑛(˜𝑃)なら𝑃𝑛({𝑥}) =∏𝑖<𝑛𝑃(𝑥𝑖) =∏𝑎𝑃(𝑎)𝑛˜𝑃(𝑎)であり,これは𝑥に依らない.よって型類全体の確率は要素数にこの値を掛けたものであり,命題 11.1.6 より
𝑃𝑛(T𝑛(˜𝑃))=𝑛!∏𝑎(𝑛˜𝑃(𝑎))! ∏𝑎𝑃(𝑎)𝑛˜𝑃(𝑎)である.この式を˜𝑃 :=𝑃′と˜𝑃 :=𝑃について比べる.
ある文字𝑎で𝑃(𝑎) =0かつ𝑃′(𝑎) >0である場合を先に片づける.このとき𝑃𝑛(T𝑛(𝑃′))の式は因子𝑃(𝑎)𝑛𝑃′(𝑎) =0をもつので値は0であり,𝑃𝑛(T𝑛(𝑃))は確率だから非負で,主張が成り立つ.
以下,どの文字でも𝑃′(𝑎) >0ならば𝑃(𝑎) >0である場合を見る.このとき𝑃(𝑎) =0の文字では𝑃′(𝑎) =0でもあるから,二つの式の対応する因子はどちらも0! =1と𝑃(𝑎)0 =1で一致する.また 系 11.1.5 より𝑃𝑛(T𝑛(𝑃)) =|T𝑛(𝑃)| 𝑒−𝑛𝐻(𝑃)で,𝑃は長さ𝑛の型だからT𝑛(𝑃)は空でなく,この値は正である.よって割ることができ,𝑛!も約分されて
𝑃𝑛(T𝑛(𝑃′))𝑃𝑛(T𝑛(𝑃))=∏𝑎:𝑃(𝑎)>0(𝑛𝑃(𝑎))!(𝑛𝑃′(𝑎))! 𝑃(𝑎)𝑛𝑃′(𝑎)−𝑛𝑃(𝑎)である.
各因子を階乗の比で抑える.非負整数𝑢,𝑣が𝑢 ≥1を満たすとき𝑢! / 𝑣! ≤𝑢𝑢−𝑣である.実際,𝑣 ≤𝑢なら𝑢!/𝑣!は𝑣 +1から𝑢までの𝑢 −𝑣個の整数の積で,どの因子も𝑢以下だから𝑢𝑢−𝑣以下である.𝑣 >𝑢なら𝑣!/𝑢!が𝑢 +1から𝑣までの𝑣 −𝑢個の整数の積で,どの因子も𝑢より大きいから𝑢𝑣−𝑢以上であり,逆数をとると同じ不等式になる.
𝑃(𝑎) >0の文字ごとに𝑢 :=𝑛𝑃(𝑎),𝑣 :=𝑛𝑃′(𝑎)ととる.𝑃と𝑃′は長さ𝑛の型だからこれらは非負整数で,𝑃(𝑎) >0より𝑢 ≥1である.𝑃(𝑎) =𝑢/𝑛に注意して,正の数𝑃(𝑎)𝑣−𝑢を両辺に掛けると
(𝑛𝑃(𝑎))!(𝑛𝑃′(𝑎))! 𝑃(𝑎)𝑛𝑃′(𝑎)−𝑛𝑃(𝑎)≤𝑢𝑢−𝑣(𝑢𝑛)𝑣−𝑢=𝑛𝑢−𝑣を得る.これを𝑃(𝑎) >0の文字について掛け合わせると,𝑛の肩に乗るのは
∑𝑎:𝑃(𝑎)>0(𝑛𝑃(𝑎)−𝑛𝑃′(𝑎))=𝑛−𝑛=0である(第1の和は全文字にわたる和∑𝑎𝑛𝑃(𝑎) =𝑛に等しく,第2の和も,いま見ている場合には𝑃(𝑎) =0の文字で𝑃′(𝑎) =0だから∑𝑎𝑛𝑃′(𝑎) =𝑛に等しい).よって比は𝑛0 =1以下であり,主張を得る.◻
この不等式は,大数の法則を型類の言葉で言い直したものである.𝑃に従う情報源から見ると,型が𝑃の系列は各文字の出現回数が期待どおりの系列であり,型がずれた系列はそのぶん確率を失う.いちばん重い型類が自分の型類になるのはそのためである.
要素数は𝑒𝑛𝐻(𝑃)の前後にある
定理 11.1.8(型類の要素数). Xを空でない有限アルファベット,𝑛 ≥1とし,𝑃を長さ𝑛の型(定義 11.1.1)とすると
(𝑛+1)−|X|𝑒𝑛𝐻(𝑃)≤∣T𝑛(𝑃)∣≤𝑒𝑛𝐻(𝑃)である(𝐻は 定義 1.1.1 のエントロピー).
証明. 上界を示す.𝑃𝑛を𝑃の𝑛重の積分布とすると,系 11.1.5 よりT𝑛(𝑃)の各点の確率は𝑒−𝑛𝐻(𝑃)だから
𝑃𝑛(T𝑛(𝑃))=∣T𝑛(𝑃)∣𝑒−𝑛𝐻(𝑃)である.左辺は確率だから1以下であり,両辺に𝑒𝑛𝐻(𝑃)を掛ければ上界を得る.
下界に移る.どの𝑥 ∈X𝑛もただ一つの型ˆ𝑃𝑥をもつ(定義 11.1.1)から,長さ𝑛の型の型類はX𝑛を重なりなく覆う.よって𝑃′が長さ𝑛の型の全体をわたる和として
1=∑𝑃′𝑃𝑛(T𝑛(𝑃′))が成り立つ.右辺の各項は 補題 11.1.7 より𝑃𝑛(T𝑛(𝑃))以下であり,項の個数は 命題 11.1.3 より(𝑛 +1)|X|以下だから
1≤(𝑛+1)|X|𝑃𝑛(T𝑛(𝑃))=(𝑛+1)|X|∣T𝑛(𝑃)∣𝑒−𝑛𝐻(𝑃)である.両辺に(𝑛 +1)−|X|𝑒𝑛𝐻(𝑃)を掛ければ下界を得る.◼
型類の要素数は𝑒𝑛𝐻(𝑃)の前後にあり,上下の隔たりは(𝑛 +1)|X|倍である.1𝑛logをとるとこの隔たりは|X|log(𝑛+1)𝑛になる.第2章 定理 2.2.5 も典型集合の要素数を2𝑛𝐻(𝑋)のまわりで評価したが,そこには典型集合を切り出すときに選んだ幅𝜀が指数に残っていた.典型集合が「経験エントロピーが𝐻(𝑋)に近い」という幅のある条件で切り出した集合であるのに対し,型類は一つの型で切り出した集合なので,指数に幅が残らない.
経験エントロピーを型で読む
系 11.1.9. Xを空でない有限アルファベットとし,定義 2.1.1 の設定(i.i.d. 情報源𝑋0,𝑋1,…,各𝑋𝑖はXに値をとり,その分布は𝑝)で,𝑝はX上の全点で正の分布とし,𝑛 ≥1とする.ブロック𝑋𝑛 =(𝑋0,…,𝑋𝑛−1)の型をˆ𝑃𝑋𝑛(定義 11.1.1)と書くと,定義 2.1.1 の経験エントロピーˆ𝐻𝑛 = −1𝑛log𝑝(𝑋0,…,𝑋𝑛−1)は
ˆ𝐻𝑛=𝐻(ˆ𝑃𝑋𝑛)+𝐷(ˆ𝑃𝑋𝑛∥𝑝)を満たす(𝐻は 定義 1.1.1 のエントロピー,𝐷は 1.6 節の相対エントロピー).
証明. 補題 2.1.3 よりˆ𝐻𝑛 =1𝑛∑𝑖<𝑛( −log𝑝(𝑋𝑖))である.対数は積を和に変えるので,和を対数の中へ戻すと,𝑝𝑛を𝑝の𝑛重の積分布としてˆ𝐻𝑛 = −1𝑛log∏𝑖<𝑛𝑝(𝑋𝑖) = −1𝑛log𝑝𝑛({𝑋𝑛})である.
𝑃 :=ˆ𝑃𝑋𝑛と置く.𝑃は長さ𝑛の型であり,𝑋𝑛 ∈T𝑛(𝑃)である.𝑝は全点で正だから,命題 11.1.4 を𝑄 :=𝑝に当てて
𝑝𝑛({𝑋𝑛})=exp(−𝑛(𝐻(𝑃)+𝐷(𝑃‖𝑝)))を得る.両辺の対数をとって−1/𝑛を掛ければ主張になる.◼
系 11.1.9 は,第2章が一つの数として扱っていた経験エントロピーを二つに割る.第1項𝐻(ˆ𝑃𝑋𝑛)は,実際に出た系列の型そのもののエントロピーであり,第2項𝐷(ˆ𝑃𝑋𝑛 ‖ 𝑝)は,その型が真の分布からどれだけ隔たっているかである.ˆ𝐻𝑛が𝐻(𝑋)からずれる原因が,型のエントロピーのずれと,型と真の分布の隔たりの二つに分かれる,ということでもある.
本節は型類を,中の点がどれも同じ確率をもち,𝑄が全点で正ならその値がexp( −𝑛(𝐻(𝑃) +𝐷(𝑃 ‖ 𝑄)))であること(命題 11.1.4)と,要素数が𝑒𝑛𝐻(𝑃)の前後にあること(定理 11.1.8)の二つで押さえた.次節はこの二つを掛け合わせる.掛けるとエントロピーの項が打ち消し合い,相対エントロピーだけが指数に残る.
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