14.2 多元接続通信路の容量領域
14.1 節は入力分布の対を一つ固定して,そこから五角形を作った.𝑊と入力分布の対がどれも全点で正なら,14.1 節で借りた 多元接続通信路の達成可能性 により,その五角形の内側の対はどれも達成可能である.固定を外すと届く先は広がる.入力分布の対を取り替えれば別の五角形が出るからというだけではない.二つの符号を時間で分けて使えば,二つの五角形から一点ずつとった対の中間にも,いくらでも近いところまで届いてしまう.
本節は,この広がりを二つの操作で言い当てる.一つは時間で分ける操作で,レート対の凸結合を作る.もう一つは極限をとる操作で,境界に届く対を拾う.𝑊が全点で正のとき,容量領域と第一象限の共通部分は,ちょうど五角形の合併の閉凸包になる.
平面の閉集合と閉包の基本性質を借りる. ℝ2の部分集合についての次の三つを既知とする.第一に,閉集合の族の共通部分はふたたび閉集合である.したがって𝑆 ⊆ℝ2に対し,𝑆を含む閉集合すべての共通部分は𝑆を含む最小の閉集合になる.これを𝑆の 閉包 と呼び――𝑆と書く.第二に,𝐾 ⊆ℝ2が閉集合であることと,𝐾の点からなる収束列の極限がつねに𝐾に属することとは,同じことである.第三に,――𝑆の点はどれも𝑆の点からなる収束列の極限として書ける.本節から先,容量領域や内界・外界を閉包で定めるところも,それらについての証明も,この宣言の意味で閉包を使う.
容量領域と閉凸包
定義 14.2.1(容量領域). 𝑊を多元接続通信路(定義 14.1.1)とする.達成可能なレート対(定義 14.1.3)全体の集合をA(𝑊)と書き,その閉包
C(𝑊):=――――A(𝑊)を𝑊の 容量領域 と呼ぶ.
A(𝑊)そのものではなく閉包を容量領域と呼ぶのは,達成可能性が与えるのがつねに「不等式が真に成り立つ側」だからである.14.1 節で借りた形がまさにそれで,五角形の境界の上の対については何も言っていない.境界の対が一つずつ達成可能かどうかを問うかわりに,極限で届く対まで含めて領域と呼ぶ.第6章も同じところで手当てをしていて,達成レートの集合R(𝑊)(定義 6.2.2)そのものではなく,その上限が容量に一致することを主定理にしていた(定理 6.4.9).答えが 1 つの数から対の集合に変わったぶん,上限をとる操作のかわりに閉包をとる操作が出てくる.
定義 14.2.2(閉凸包). 𝑆 ⊆ℝ2に対し,𝑆を含む閉凸集合すべての共通部分を𝑆の 閉凸包 と呼び,――――conv 𝑆と書く.
ℝ2自身が𝑆を含む閉凸集合なので,共通部分をとる先の族は空でない.借りた 平面の閉集合と閉包の基本性質 の第一が閉包に与えた作り方と同じで,集める集合に凸という条件を足しただけである.
時分割
記号を一つ引いておく.実数𝑡に対する床関数⌊𝑡⌋,すなわち𝑡以下の最大の整数と,その性質⌊𝑡⌋ ≤𝑡 <⌊𝑡⌋ +1は,第12章 12.5 節で既知としたとおりに本節でも使う.
証明. 閉であることは定義から出る.C(𝑊)はA(𝑊)の閉包であり,平面の閉集合と閉包の基本性質の第一により閉包は閉集合である.
凸であることを二段に分けて示す.第一段では,達成可能な二つの対の凸結合に真に下から近い対が達成可能であることを見る.すなわち,(𝑎1,𝑎2)と(𝑏1,𝑏2)が達成可能で,𝜆 ∈[0,1]と実数の対(𝑅1,𝑅2)が𝑅𝑗 <𝜆𝑎𝑗 +(1 −𝜆)𝑏𝑗(𝑗 =1,2)を満たすなら,(𝑅1,𝑅2)は達成可能である.
はじめに,達成可能性が成分について単調であることに注意する.(𝑎1,𝑎2)が達成可能で𝑅𝑗 ≤𝑎𝑗なら,定義 14.1.3 が与える符号がそのまま(𝑅1,𝑅2)についての条件を満たす.これで𝜆 =1と𝜆 =0の場合は済むので,以下0 <𝜆 <1とする.
𝜁 >0をとる.達成可能性を目標の誤り確率𝜁/2に対して二つの対それぞれに使い,(𝑎1,𝑎2)の側で得られる長さの下限を𝑁𝑎,(𝑏1,𝑏2)の側のものを𝑁𝑏とする.長さ𝑛に対し𝑛𝑎 :=⌊𝜆𝑛⌋,𝑛𝑏 :=𝑛 −𝑛𝑎とおく.床関数の性質より𝜆𝑛 −1 <𝑛𝑎 ≤𝜆𝑛であり,0 <𝜆 <1だから𝑛𝑎 →∞かつ𝑛𝑏 ≥(1 −𝜆)𝑛 →∞である.よって,ある𝑁0から先のすべての𝑛で𝑁𝑎 ≤𝑛𝑎と𝑁𝑏 ≤𝑛𝑏がともに成り立ち,しかも𝑛𝑎と𝑛𝑏はどちらも1以上である.
そのような𝑛を一つとる.長さ𝑛𝑎の多元接続符号で1𝑛𝑎log𝑀𝑎𝑗 ≥𝑎𝑗(𝑗 =1,2)と平均誤り確率𝜁/2未満を満たすものと,長さ𝑛𝑏の多元接続符号で1𝑛𝑏log𝑀𝑏𝑗 ≥𝑏𝑗と平均誤り確率𝜁/2未満を満たすものをとる.この二つを時間でつないで,長さ𝑛の符号を作る.利用者𝑗のメッセージを対(𝑢,𝑣) ∈{1,…,𝑀𝑎𝑗} ×{1,…,𝑀𝑏𝑗}で番号づけ,その符号語を,前半の符号語のうしろに後半の符号語をつないだものとする.復号器は,受け取った𝑦𝑛の前半𝑛𝑎文字を前半の符号の復号器に,後半𝑛𝑏文字を後半の符号の復号器に渡し,返ってきた二つの対から利用者ごとに番号を組み立てる.
つないだ符号のメッセージ数は𝑀𝑗 =𝑀𝑎𝑗𝑀𝑏𝑗だから
1𝑛log𝑀𝑗=𝑛𝑎𝑛⋅1𝑛𝑎log𝑀𝑎𝑗+𝑛𝑏𝑛⋅1𝑛𝑏log𝑀𝑏𝑗≥𝑛𝑎𝑛𝑎𝑗+𝑛𝑏𝑛𝑏𝑗である.誤り確率のほうは,定義 14.1.1 の積の形により,前半𝑛𝑎文字の出力の分布が前半の入力だけで決まる長さ𝑛𝑎のものになり,後半についても同様で,しかも二つは独立である.つないだ符号が誤るのは前半か後半の少なくとも一方で誤るときだから,どのメッセージの対についても誤り確率は二つの符号の対応する誤り確率の和以下である.メッセージの対について平均すると,前半の平均誤り確率と後半の平均誤り確率の和で抑えられるので,¯𝑃𝑒 <𝜁/2 +𝜁/2 =𝜁である.
最後に𝑛を大きくする.𝑛𝑎/𝑛 →𝜆かつ𝑛𝑏/𝑛 →1 −𝜆だから,上の右辺は𝜆𝑎𝑗 +(1 −𝜆)𝑏𝑗に収束する.𝑅𝑗はこの値より真に小さいので,𝑁0を大きくとり直せば,𝑁0 ≤𝑛を満たすすべての𝑛で1𝑛log𝑀𝑗 ≥𝑅𝑗が𝑗 =1,2の両方について成り立つ.𝜁に対する𝑁としてこの𝑁0がとれたから,(𝑅1,𝑅2)は達成可能である.
第二段で凸性を出す.𝑥,𝑦をC(𝑊)の点,𝜆 ∈[0,1]とし,𝑧 :=𝜆𝑥 +(1 −𝜆)𝑦とおく.平面の閉集合と閉包の基本性質の第三により,A(𝑊)の点からなる列𝑎(𝑘),𝑏(𝑘)で𝑎(𝑘) →𝑥,𝑏(𝑘) →𝑦となるものがとれる.𝑘 ≥1に対し
𝑧(𝑘):=𝜆𝑎(𝑘)+(1−𝜆)𝑏(𝑘)−(1𝑘,1𝑘)とおくと,成分ごとに𝑧(𝑘)𝑗 <𝜆𝑎(𝑘)𝑗 +(1 −𝜆)𝑏(𝑘)𝑗だから,第一段より𝑧(𝑘)は達成可能である.いっぽう𝑧(𝑘) →𝜆𝑥 +(1 −𝜆)𝑦 =𝑧である.A(𝑊) ⊆C(𝑊)でありC(𝑊)は閉集合だから,平面の閉集合と閉包の基本性質の第二により極限𝑧もC(𝑊)に属する.◼
第一段が時分割である.𝑛回の使用のうち先頭の𝜆割を一つ目の符号に,残りを二つ目の符号に割り当てた.2 人が同じ割り当てを知っていることは要る(そうでなければ後半の符号語を前半に送ってしまう)が,互いのメッセージを知る必要はないので,定義 14.1.2 の枠の中に収まっている.レートが凸結合になるのは,メッセージ数が掛け算で増え,対数が足し算に変わるからである.誤りのほうは足し算のまま増えるので,目標を半分ずつに割っておけば間に合う.
五角形の合併から容量領域へ
道具をもう一つ借りる.五角形の包含,すなわち「どの入力の対がつくる五角形も容量領域に含まれる」という主張である.使う形を書いておく.
𝑊を多元接続通信路とし,𝑊が全点で正,すなわち𝑊(𝑦 ∣𝑥1,𝑥2) >0がすべての𝑥1 ∈X1,𝑥2 ∈X2,𝑦 ∈Yで成り立つとする.このとき,X1上の分布𝑝1とX2上の分布𝑝2のどの対についてもP(𝑝1,𝑝2) ⊆C(𝑊)である.
当てる対象は 定義 14.1.5 の五角形と 定義 14.2.1 の容量領域だけで,依存するのは 定理 14.2.4 の証明と,14.7 節が借りる Marton の内界の達成可能性 の筋書きである.
借りたままにするので,中で何が起きているかの筋書きだけ書いておく.五角形の内側で両方のレートが正である対は,14.1 節で借りた 多元接続通信路の達成可能性 がそのまま与える.残るのは二つで,一つは五角形の境界と軸の上の対,もう一つは入力分布が全点で正でない場合である.前者は容量領域が閉包であることから拾える.後者は,入力分布を一様分布のほうへわずかにずらして全点で正にし,ずらし幅を0に近づける極限で戻す.
本書はこの主張を証明しない.いま述べた二段をどちらも扱わないからである.前者が見かけほど簡単でないのは,五角形が潰れることがあるからである.14.1 節の借用が届くのは両方のレートが真に正である対だけなので,枠の一つが0になる入力の対では届く対が一つも無く,境界の対を内側からの極限としては拾えない.出力が一方の入力にしかよらない通信路では,どちらの入力分布を全点で正にとってもこれが起きる.後者,すなわち入力分布をずらして戻す段では,ずらし幅を0に近づけたときに三つの枠が連続的に動くことを確かめる必要がある.
定理 14.2.4. 𝑊を多元接続通信路(定義 14.1.1)とし,𝑊(𝑦 ∣𝑥1,𝑥2) >0がすべての𝑥1 ∈X1,𝑥2 ∈X2,𝑦 ∈Yで成り立つとする.このとき
――――conv(⋃𝑝1,𝑝2P(𝑝1,𝑝2))⊆C(𝑊)である.ここで合併は,X1上の分布𝑝1とX2上の分布𝑝2の対すべてにわたる.
証明. 借りた五角形の包含より,どの対(𝑝1,𝑝2)についてもP(𝑝1,𝑝2) ⊆C(𝑊)だから,合併もC(𝑊)に含まれる.命題 14.2.3 よりC(𝑊)は閉集合であり凸集合である.したがってC(𝑊)は,定義 14.2.2 で共通部分をとる先の族,すなわち合併を含む閉凸集合の族に属する.共通部分はその族のどの元にも含まれるから,左辺はC(𝑊)に含まれる.◼
左辺を合併ではなく閉凸包にしてあるのは,時分割で届く対が合併の中に収まらないからである.二つの入力の対(𝑝1,𝑝2)と(𝑝′1,𝑝′2)をとり,それぞれの五角形から一点ずつ選ぶと,借りた五角形の包含が言うのは二点がC(𝑊)に属することまでで,二点を結ぶ線分がどちらかの五角形に入っているとは限らない.その線分がC(𝑊)に収まることを与えるのが 命題 14.2.3 の凸性であり,閉凸包はこの線分をはじめから含んでいる.時分割の議論は,命題 14.2.3 の凸性を経由してここで働いている.
容量領域の特徴づけ
逆向き,すなわち容量領域が閉凸包より広くならないことを見る.ここでも道具を借りる.多元接続通信路の逆定理,すなわち「達成可能で第一象限にあるレート対は,五角形の合併の閉凸包に属する」という主張である.使う形を書いておく.
𝑊を多元接続通信路とする(全点で正であることは求めない).実数の対(𝑅1,𝑅2)が 定義 14.1.3 の意味で達成可能で,𝑅1 ≥0かつ𝑅2 ≥0なら,
(𝑅1,𝑅2)∈――――conv(⋃𝑝1,𝑝2P(𝑝1,𝑝2))である.合併は 定理 14.2.4 と同じく分布の対すべてにわたる.
当てる対象は 定義 14.1.3 の達成可能性と 定義 14.1.5 の五角形だけで,依存するのは 定理 14.2.5 の証明だけである.
借りたままにするので,中で何が起きているかの筋書きだけ書いておく.長さ𝑛の符号を一つとり,メッセージの対が一様に選ばれるとして,ファノの不等式(定理 1.10.1)を三通りに当てる.利用者 1 のメッセージを利用者 2 のメッセージと出力から推定する形,利用者 2 について同じ形,そして対をまとめて推定する形の三つで,log𝑀1,log𝑀2,log𝑀1 +log𝑀2の上界がそれぞれ出る.第6章 定理 6.4.5 と同じように通信路の記憶のなさで時刻ごとにほどくと,右辺は時刻ごとの入力の対が定める五角形の枠の,時刻についての平均になる.平均で抑えられた対を,時刻ごとの五角形から一点ずつとった凸結合として書き直すと,五角形の合併の凸包に入る.最後に誤り確率を0に送るとファノの項が消えて,閉包の側に落ちる.
本書はこの主張を証明しない.済ませなければならない段が二つあって,どちらも本書が用意していないものである.一つは時刻ごとにほどく段で,第6章のものをそのまま当てるのでは済まない.あちらは入力が 1 本だったので条件付き相互情報量の和に分ければ終わったが,こちらは三つの不等式それぞれで条件に置くものが違うので,三通りに分け直すことになる.もう一つは,ほどいた先で得られるのが三つの枠の時刻についての平均による評価でしかない,というところである.平均で抑えられた対を,時刻ごとの五角形から一点ずつとった凸結合として書き直す段が要る.書き直せるのは,時刻ごとの三つ組が 命題 14.1.4 の形をしているおかげである.メッセージの対が一様で,各利用者の符号語は自分のメッセージだけで決まるので,時刻ごとの入力の対は独立なのである.
定理 14.2.5(容量領域の特徴づけ). 𝑊を多元接続通信路(定義 14.1.1)とし,𝑊(𝑦 ∣𝑥1,𝑥2) >0がすべての𝑥1 ∈X1,𝑥2 ∈X2,𝑦 ∈Yで成り立つとする.𝑄 :={(𝑅1,𝑅2) ∈ℝ2 :𝑅1 ≥0, 𝑅2 ≥0}とおくと
C(𝑊)∩𝑄=――――conv(⋃𝑝1,𝑝2P(𝑝1,𝑝2))である.合併は 定理 14.2.4 と同じく,X1上の分布とX2上の分布の対すべてにわたる.
証明. 右辺を𝐾と書く.
𝐾 ⊆C(𝑊) ∩𝑄を示す.𝐾 ⊆C(𝑊)は 定理 14.2.4 である.𝐾 ⊆𝑄を見るには,𝑄が合併を含む閉凸集合であることを言えばよい(定義 14.2.2 の共通部分はその族のどの元にも含まれる).五角形はどれも 定義 14.1.5 の最初の二つの不等式により𝑄に含まれるから,合併も𝑄に含まれる.𝑄の点の凸結合は成分がふたたび非負だから𝑄は凸であり,𝑄の点からなる収束列の極限も成分が非負だから,平面の閉集合と閉包の基本性質の第二により𝑄は閉である.
C(𝑊) ∩𝑄 ⊆𝐾を示す.(𝑅1,𝑅2) ∈C(𝑊) ∩𝑄をとる.定義 14.2.1 よりC(𝑊)はA(𝑊)の閉包だから,平面の閉集合と閉包の基本性質の第三により,達成可能な対からなる列𝑎(𝑘) →(𝑅1,𝑅2)がとれる.各𝑘について𝑏(𝑘) :=(max(𝑎(𝑘)1,0),max(𝑎(𝑘)2,0))とおく.これは三つのことを満たす.第一に𝑏(𝑘)は達成可能である.定義 14.1.3 はメッセージ数に𝑀𝑗 ≥1を求めているので1𝑛log𝑀𝑗 ≥0であり,𝑎(𝑘)𝑗を0に取り替えても条件は満たされたままだからである.第二に𝑏(𝑘) ∈𝑄である.第三に𝑏(𝑘) →(𝑅1,𝑅2)である.実数𝑠,𝑡について|max(𝑠,0) −max(𝑡,0)| ≤|𝑠 −𝑡|が成り立ち(𝑠と𝑡の大小で場合を分ければ確かめられる),𝑅𝑗 ≥0よりmax(𝑅𝑗,0) =𝑅𝑗だからである.
借りた多元接続通信路の逆定理を各𝑏(𝑘)に当てると𝑏(𝑘) ∈𝐾を得る.𝐾は 定義 14.2.2 により閉集合の共通部分だから,平面の閉集合と閉包の基本性質の第一により閉集合である.よって平面の閉集合と閉包の基本性質の第二により,極限(𝑅1,𝑅2)も𝐾に属する.◼
定理 14.2.5 が述べているのは,容量領域そのものではなく第一象限との共通部分についてである.定義 14.1.3 の達成可能性は負のレートを禁じていない.レートに求めているのは1𝑛log𝑀𝑗 ≥𝑅𝑗という下からの不等式だけなので,𝑅𝑗を負にとれば条件はそれだけ緩くなる.いっぽう右辺の閉凸包は第一象限に収まる.五角形はどれも 定義 14.1.5 の最初の二つの不等式により第一象限に含まれ,第一象限は閉凸集合だからである(定理 14.2.5 の証明の第一段がその確認である).負のレートは符号の取り分としては読めないので,C(𝑊)の側を第一象限で切ってから特徴づけを述べている.
例 14.2.6(片方を黙らせる). 𝑊を多元接続通信路とし,𝑊(𝑦 ∣𝑥1,𝑥2) >0がすべての𝑥1,𝑥2,𝑦で成り立つとする.𝑥2 ∈X2を一つ固定し,𝑊𝑥2(𝑦 ∣𝑥1) :=𝑊(𝑦 ∣𝑥1,𝑥2)とおく.これは第6章 定義 6.1.1 の意味の通信路である.𝑝2を𝑥2に集中した一点分布にとると,X1上のどの分布𝑝1についても,命題 14.1.4 の三つ組の三つの量は
𝐼(𝑋1;𝑌∣𝑋2)=𝐼(𝑝1;𝑊𝑥2),𝐼(𝑋2;𝑌∣𝑋1)=0,𝐼((𝑋1,𝑋2);𝑌)=𝐼(𝑝1;𝑊𝑥2)であり,五角形P(𝑝1,𝑝2)は線分{(𝑅1,0) :0 ≤𝑅1 ≤𝐼(𝑝1;𝑊𝑥2)}に潰れる.𝑝1を動かしてこれらを合わせると線分{(𝑅1,0) :0 ≤𝑅1 ≤𝐶(𝑊𝑥2)}になり(𝐶は 定義 6.1.4 の通信路容量),定理 14.2.5 よりこれはC(𝑊)に含まれる.
証明. 𝑝2が𝑥2に集中しているので,三つ組の同時分布は𝑥′2 ≠𝑥2で0であり,𝑥′2 =𝑥2では𝑝1(𝑥1)𝑊𝑥2(𝑦 ∣𝑥1)である.
まず𝐼(𝑋2;𝑌 ∣𝑋1) =0を見る.𝑥1を固定すると,条件付き分布のもとで𝑋2は𝑥2をとる確率が1だから,𝑝(𝑥′2,𝑦 ∣𝑥1) =𝑝(𝑥′2 ∣𝑥1) 𝑝(𝑦 ∣𝑥1)がすべての(𝑥′2,𝑦)で成り立つ(𝑥′2 ≠𝑥2では両辺とも0,𝑥′2 =𝑥2では𝑝(𝑥2 ∣𝑥1) =1である).命題 1.4.2 の等号条件より𝐼(𝑋2;𝑌 ∣𝑋1) =0である.
次に𝐼(𝑋1;𝑌 ∣𝑋2)を計算する.定義 1.4.1 より,これは𝐼(𝑋1;𝑌 ∣𝑋2 =𝑥′2)を𝑥′2について平均したものであり,重みが0でない項は𝑥′2 =𝑥2の一つだけである.𝑋2 =𝑥2のもとでの(𝑋1,𝑌)の条件付き同時分布は𝑝1(𝑥1)𝑊𝑥2(𝑦 ∣𝑥1)だから,命題 6.1.3 よりその相互情報量は𝐼(𝑝1;𝑊𝑥2)である.
三つめに移る.対(𝑋2,𝑋1)から𝑋2を先に取り出すチェイン則(定理 1.5.1)で𝐼((𝑋2,𝑋1);𝑌) =𝐼(𝑋2;𝑌) +𝐼(𝑋1;𝑌 ∣𝑋2)である.𝑋2は確率1で𝑥2をとるから,上と同じ理由で𝑝(𝑥′2,𝑦) =𝑝(𝑥′2) 𝑝(𝑦)がすべての(𝑥′2,𝑦)で成り立ち,命題 1.3.2 の等号条件より𝐼(𝑋2;𝑌) =0である.対の成分をどちらの順に並べても情報量は変わらないので,𝐼((𝑋1,𝑋2);𝑌) =𝐼(𝑋1;𝑌 ∣𝑋2)である.
五角形の形を見る.三つの枠が𝐼(𝑝1;𝑊𝑥2),0,𝐼(𝑝1;𝑊𝑥2)だから,定義 14.1.5 の五つの条件は0 ≤𝑅1 ≤𝐼(𝑝1;𝑊𝑥2)と𝑅2 =0に同値である(0 ≤𝑅2 ≤0から𝑅2 =0が出て,和の条件は第 1 の条件に吸収される).
最後に𝑝1を動かす.どの𝑝1についても𝐼(𝑝1;𝑊𝑥2) ≤𝐶(𝑊𝑥2)だから,合わせたものは主張の線分に含まれる.逆に,定理 6.1.5 より𝐼( ⋅ ;𝑊𝑥2)を最大にする入力分布𝑝∗があって𝐼(𝑝∗;𝑊𝑥2) =𝐶(𝑊𝑥2)だから,𝑝1 =𝑝∗の線分が主張の線分そのものである.これは 定理 14.2.5 の右辺の合併に含まれ,定義 14.2.2 で共通部分をとる先の集合はどれも合併を含むから閉凸包も合併を含む.よって 定理 14.2.5 よりC(𝑊)に含まれる.◼
片方の利用者を黙らせると,残った側から見た通信路は第6章の 1 人用の通信路にほかならない.例 14.2.6 は,その容量が多元接続の容量領域の𝑅2 =0の辺として現れることを言っている.第6章の𝐶(𝑊𝑥2)は,こうして領域の一部として読み直せる.黙らせる文字を𝑥2ごとに取り替えれば別の𝐶(𝑊𝑥2)が出るので,辺の長さは黙らせ方のうちいちばん良いものまで伸びる.
本節はここまで,領域を集合の操作だけで書いてきた.最後に,全点で正な通信路を一つとって三つの枠を数で出し,領域の形を見ておく.
例 14.2.7(雑音のある二元加算多元接続通信路). X1 =X2 ={0,1},Y ={0,1,2}とし,𝑊を
𝑊(𝑥1+𝑥2∣𝑥1,𝑥2)=0.9,𝑊(𝑦∣𝑥1,𝑥2)=0.05(𝑦≠𝑥1+𝑥2)で定まる通信路とする.例 14.1.6 の加算通信路で,出力が確率0.1で残りの二つの値のどちらかに化ける,と読める.この𝑊は全点で正である.入力分布𝑝1,𝑝2をどちらも一様,すなわち𝑝1(0) =𝑝1(1) =𝑝2(0) =𝑝2(1) =1/2にとると,命題 14.1.4 の三つ組について
𝐼(𝑋1;𝑌∣𝑋2)=𝐼(𝑋2;𝑌∣𝑋1)=1720+𝐻𝑏(0.05)−𝐻𝑏(0.1),𝐼((𝑋1,𝑋2);𝑌)=1740+𝐻𝑏(0.475)−𝐻𝑏(0.1)である(𝐻𝑏は 例 1.1.2 の二値エントロピー).五角形P(𝑝1,𝑝2)は 定理 14.2.4 よりC(𝑊)に含まれる.
証明. 各対についての総和が0.9 +0.05 +0.05 =1だから,𝑊は 定義 14.1.1 の多元接続通信路である.値が0.9と0.05の二通りしかないので全点で正でもある.
𝐻(𝑌 ∣𝑋1,𝑋2)を計算する.入力の対を固定すると𝑌は三つの値を確率0.9,0.05,0.05でとるから,定義 1.1.1 より,そのエントロピーは対によらず
−0.9log0.9−2⋅0.05log0.05=−0.9log0.9−0.1log0.1+0.1=𝐻𝑏(0.1)+0.1である(log0.05 =log0.1 −1を使った).定義 1.2.2 はこれを平均したものだから𝐻(𝑌 ∣𝑋1,𝑋2) =𝐻𝑏(0.1) +0.1である.
𝐻(𝑌 ∣𝑋2)に移る.𝑋1と𝑋2は独立だから,𝑋2 =𝑥2のもとで𝑋1は一様である.𝑥1が動くと入力の和は𝑥2と𝑥2 +1の二つの値をそれぞれ確率1/2でとるので,𝑌の条件付き分布はその二つの値をそれぞれ確率12(0.9 +0.05) =0.475でとり,残る一つの値を確率0.05でとる.定義 1.1.1 より,そのエントロピーは𝑥2によらず
−2⋅0.475log0.475−0.05log0.05=−0.95log0.95−0.05log0.05+0.95=𝐻𝑏(0.05)+0.95である(log0.475 =log0.95 −1を使った).よって𝐻(𝑌 ∣𝑋2) =𝐻𝑏(0.05) +0.95である.
一つめの量を出す.出力の側をエントロピーの差に開く形(定理 1.4.3)で𝐼(𝑌;𝑋1 ∣𝑋2) =𝐻(𝑌 ∣𝑋2) −𝐻(𝑌 ∣𝑋2,𝑋1)であり,命題 1.4.2 の対称性より左辺は𝐼(𝑋1;𝑌 ∣𝑋2)に等しい.上の二つを引くと𝐻𝑏(0.05) +0.95 −𝐻𝑏(0.1) −0.1で,これが主張の値である.𝑊は𝑥1と𝑥2の入れ替えで変わらず,入力分布も同じだから,𝐼(𝑋2;𝑌 ∣𝑋1)も同じ値である.
和のほうに移る.𝑋1と𝑋2が独立な一様分布だから,入力の和は0,1,2をそれぞれ確率1/4,1/2,1/4でとる.よって𝑌は0と2をそれぞれ確率14 ⋅0.9 +34 ⋅0.05 =0.2625でとり,1を確率12 ⋅0.9 +12 ⋅0.05 =0.475でとる.定義 1.1.1 より
𝐻(𝑌)=−2⋅0.2625log0.2625−0.475log0.475=𝐻𝑏(0.475)+0.525である(log0.2625 =log0.525 −1を使って第 1 項を−0.525log0.525 +0.525に直した).定理 1.3.4 の𝐼(𝑋;𝑌) =𝐻(𝑌) −𝐻(𝑌 ∣𝑋)を,対(𝑋1,𝑋2)を 1 つの変数とみなして当てると𝐼((𝑋1,𝑋2);𝑌) =𝐻(𝑌) −𝐻(𝑌 ∣𝑋1,𝑋2)だから,これは𝐻𝑏(0.475) +0.525 −𝐻𝑏(0.1) −0.1で,やはり主張の値である.
最後に包含を見る.𝑊は全点で正だから 定理 14.2.4 が当たる.五角形は合併に含まれ,定義 14.2.2 で共通部分をとる先の集合はどれも合併を含むから閉凸包も合併を含み,その閉凸包がC(𝑊)に含まれる.◼
数で見ると,1 人ぶんの枠はどちらも約0.667,和の枠は約0.954である.例 14.1.6 の雑音のない加算通信路では1,1,3/2だったから,10回に1回の化けが三つの枠をこれだけ削ったことになる.和の枠は 1 人ぶんの枠の2倍(約1.33)に届いていないので,五角形は辺が潰れておらず,二つの折れ点は約(0.667, 0.287)と約(0.287, 0.667)にある.一様な入力分布から出るのはこの五角形一つで,C(𝑊) ∩𝑄を言い当てるには,定理 14.2.5 のとおり入力分布の対すべてにわたる合併の閉凸包をとることになる.
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