14.5 ブロードキャスト通信路と重ね合わせ符号化

14.1 節は送り手が二人で受け手が一人だった.本節はその裏返しで,送り手が一人,受け手が二人である.送り手は一本の入力列を流し込み,二人の受け手はそれぞれ自分の側の出力列だけを見て,別々のメッセージを取り出す.無線の基地局が複数の端末に同時に配信する場面がこれにあたる.

答えの形は 14.1 節と同じくレート対の集合になるが,取り引きの中身は違う.多元接続では二人が同じ出力に混ざり込むことが制約だったのに対し,ここでは送れる入力列が一本しかないことが制約である.一本の列に二人ぶんのメッセージを載せるので,片方に合わせて作ると他方には読みにくいものが届く.二人の受け手の性能に差があるとき,この対立をどう調停するかが本節の主題である.

通信路と符号

定義 14.5.1(ブロードキャスト通信路). XY1をどれも空でない有限アルファベットとする.ブロードキャスト通信路(broadcast channel)とは,入力ごとに上の分布を与える対応である.すなわちであって,各についてを満たす.その二つの 周辺通信路

𝑊1(𝑦1𝑥):=𝑦2Y2𝑊(𝑦1,𝑦2𝑥),𝑊2(𝑦2𝑥):=𝑦1Y1𝑊(𝑦1,𝑦2𝑥)

で定める.長さの入力に対する出力の対の分布を

𝑊𝑛(𝑦𝑛1,𝑦𝑛2𝑥𝑛):=𝑛1𝑖=0𝑊(𝑦1,𝑖,𝑦2,𝑖𝑥𝑖)

で定める.

𝑊1はどちらも第6章 定義 6.1.1 の意味の通信路で,受け手,受け手が自分の出力だけを見るかぎり相手にしているのはこの二つである.ところが通信路の側はそれ以上のもの,すなわち二つの出力の同時分布まで決めている.同じ周辺をもつは何通りもあり,どれを選ぶかで二人の出力の相関が変わる.以下で劣化という条件を置くときに効くのが,まさにこの同時分布のほうである.

形式化: BCChannel (ソース)

定義 14.5.2(ブロードキャスト符号). をブロードキャスト通信路(定義 14.5.1)とし,とする.長さブロードキャスト符号 とは,メッセージ数と,符号化写像,および受け手ごとの復号器の組である.メッセージの対を送ったときの受け手誤り確率 と,対について平均した受け手平均誤り確率

𝑃𝑒,𝑗(𝑚1,𝑚2):=𝑦𝑛1,𝑦𝑛2:𝑑𝑗(𝑦𝑛𝑗)𝑚𝑗𝑊𝑛(𝑦𝑛1,𝑦𝑛2𝑐(𝑚1,𝑚2)),¯𝑃𝑒,𝑗:=1𝑀1𝑀2𝑀1𝑚1=1𝑀2𝑚2=1𝑃𝑒,𝑗(𝑚1,𝑚2)

で定める(𝑗 =1,2).

14.1 節定義 14.1.2 と左右が入れ替わっている.あちらは符号化が二本に分かれて復号が一本だったが,こちらは符号化が一本で復号が二本である.一本になった符号化写像は二つのメッセージのを受け取るので,送り手は両方を知っている.分かれたのは読む側で,受け手しか見ず,受け手しか見ない.誤りも受け手ごとに数える.自分のメッセージさえ当たっていればその受け手にとっては誤りでないので,誤り確率は二つある.

形式化: 符号 BroadcastCode,メッセージの対ごとの誤り確率 errorProbAt₁errorProbAt₂,受け手ごとの平均誤り確率 averageErrorProb₁averageErrorProb₂ (ソース)

定義 14.5.3(達成可能なレート対と容量領域). をブロードキャスト通信路(定義 14.5.1)とする.実数の対達成可能 であるとは,任意のに対してあるがあって,を満たすすべてのについて,長さのブロードキャスト符号(定義 14.5.2)で

1𝑛log𝑀1𝑅1,1𝑛log𝑀2𝑅2,¯𝑃𝑒,1<𝜁,¯𝑃𝑒,2<𝜁

を満たすものが存在することをいう.達成可能な対全体の集合の閉包を容量領域 と呼び,と書く.

14.1 節 定義 14.1.3 と同じ形で,誤り確率についての条件が二人ぶんに増えただけである.閉包をとる理由も 14.2 節 定義 14.2.1 と同じで,達成可能性が与えるのはつねに不等式が真に成り立つ側だから,境界の対を極限で拾っておく.閉包は 14.2 節で借りた 平面の閉集合と閉包の基本性質 の意味でとる.

この定義はレートの符号を問うていない.14.2 節定理 14.2.5 が第一象限との共通部分について述べたのに対し,ここでは容量領域を第一象限で切らない.定義 14.5.3 がレートに求めているのはという下からの不等式だけなので,を負にとれば条件はそれだけ緩くなる.以下で置く内界も外界も同じく第一象限で切らないので,三つの領域はそのまま比べられる.

形式化: 達成可能性 BCAchievable,容量領域 bcCapacityRegion (ソース)

劣化

二人の受け手の性能に差があるという状況を,通信路の側の条件として書く.いちばん強い書き方は,一方の出力がもう一方の出力をさらに雑音に通したものになっている,というものである.

定義 14.5.4(物理的に劣化している). をブロードキャスト通信路(定義 14.5.1)とする.物理的に劣化している とは,を入力,を出力とする通信路第6章 定義 6.1.1)があって,すべての𝑦1について

𝑊(𝑦1,𝑦2𝑥)=𝑊1(𝑦1𝑥)𝑊21(𝑦2𝑦1)

が成り立つことをいう.

右辺を読むと,入力から出るのはだけで,はそこからさらにを通して作られている.つまり受け手は,受け手が見たものを又聞きしているにすぎない.これは同時分布についての条件であって,周辺だけでは決まらない.より雑音が多いという言い方は周辺どうしの比較だが,定義 14.5.4 が求めているのは,同じ確率空間の上でという順に情報が流れていることである.14.6 節では,周辺だけを見る弱い条件を二つ置いて,劣化していればそのどちらも満たされることを見る.

形式化: IsBCDegraded (ソース)

例 14.5.5(二元対称通信路を二段つなぐ). とし,とする.𝑍1を互いに独立でを満たす確率変数とし,入力に対する出力の対を𝑌2 :=𝑌1 𝑍2は排他的論理和)で定める.このとき定まるブロードキャスト通信路定義 14.5.4 の意味で物理的に劣化しており,は反転確率の二元対称通信路(例 6.1.8),は反転確率の二元対称通信路である.

証明. まず劣化を見る.を反転確率の二元対称通信路,すなわちかつとする.またはのときは,に対してのとりうる値が一つに決まる.そこで先に,である組を片づけておく.定義 14.5.1 の和よりだから,この組では示すべき等式の両辺がどちらもである.以下,すなわち条件の側が正の確率をもつ組で考える.と独立で,したがってとも独立だから,を与えたときのの条件付き分布はである.よって

𝑊(𝑦1,𝑦2𝑥)=Pr[𝑌1=𝑦1𝑥]Pr[𝑌2=𝑦2𝑥, 𝑌1=𝑦1]=𝑊1(𝑦1𝑥)𝑊21(𝑦2𝑦1)

であり,これが 定義 14.5.4 の条件である.のほうはから直に読める.の確率がなので,と違う確率はである.

を計算する.だから,と違うのはのとき,すなわちのちょうど一方がのときである.二つは独立だから,その確率はである.この値はによらないので,は反転確率がこの値の二元対称通信路である.

反転確率を二つ重ねると反転しやすくなる.つないだ通信路の反転確率との差はで,かつならこれは正であり,つないだ反転確率はを超えない.の上で減らない(補題 9.3.1 の第の主張)ので,例 6.1.8 の容量をこの二つの反転確率で読むと,受け手の側が受け手の側を上回らないことが見てとれる(単調性は非狭義なので,真に小さいとまでは読めない).劣化という言葉はこの「後ろに置かれたほうが不利になる」という関係を,容量の比較ではなく通信路の作り方として書いたものである.

重ね合わせ符号化

道具を一つ借りる.重ね合わせ符号化の達成可能性,すなわち「補助変数を一つ挟んで測った情報量の内側のレート対が実際に達成できる」という主張である.使う形を書いておく.

をブロードキャスト通信路(定義 14.5.1)とする(二人の性能を比べる条件は求めない).空でない有限アルファベット上の分布と,を入力,を出力とする通信路第6章 定義 6.1.1)をとり,𝑝𝑈𝐾がどれも全点で正,すなわち𝐾(𝑥 𝑢) >0がすべての𝑥 X𝑦1 Y1で成り立つとする.四つ組を,同時分布がであるような確率変数の組とする.実数の対

𝑅1<𝐼(𝑋;𝑌1𝑈),𝑅2<𝐼(𝑈;𝑌2),max(𝑅1,0)+𝑅2<𝐼((𝑈,𝑋);𝑌1)

を満たすならば,定義 14.5.3 の意味で達成可能である.レートの符号は問わない.三本目にを置いてあるのはそのためで,が正のときはこの枠はと同じ式である.さらに定義 14.5.4 の意味で物理的に劣化していて,しかもであるなら,三本目を落として最初の二本だけを課しても同じ結論が成り立つ.

当てる対象は 定義 14.5.2 のブロードキャスト符号だけで,劣化を仮定した形に依存するのが本節の終わりの地の文,三本の枠を課した形に依存するのが 14.6 節 命題 14.6.5 の直後の地の文と,同じ節が借りる 能力がより高い通信路の容量領域 の筋書きである.

借りたままにするので,中で何が起きているかの筋書きだけ書いておく.符号語を二段に作る.まず補助変数の側の符号語重積から本引き,その一本ごとに,入力の側の符号語の各文字からの積で本引く.一本目の層を ,その周りに散らした二本目の層を 衛星 と呼ぶ.受け手は雲の符号語だけを読み,それがを教える.受け手は,まず雲を読んでを当て,そのうえで雲に付いた衛星の中からを読む.は二人に共通で見える粗い層,は受け手だけが見分けられる細かい層にあたり,二つの情報量がそれぞれの層で運べる量である.三本目の枠が出るのはここからで,受け手は雲と衛星の両方を読むのだから,二つを合わせたを超えては読めない.劣化しているときにこの三本目を落とせる理由は,14.6 節 命題 14.6.5 とその直後の地の文で見る.

本書はこの主張を証明しない.二段の符号帳についてのランダム符号化で,14.1 節で借りたものと同じ段,すなわち三通りに分かれる誤りの勘定と,符号帳についての平均から良い一組を取り出す段が要る.そのうえ雲と衛星が入れ子になっているので,第6章 6.3 節の一本の符号帳についての議論をそのまま二度使うのでは済まない.

形式化: 三本の枠を課した形 bc_achievability_of_rate_lt,劣化を仮定した形 bc_achievability (ソース)

形式化上の注記. 形式化の宣言は,目標の誤り確率を結論の中で全称にとらず,仮定の側に置いた形で書かれている.定義 14.5.3 はその全称を達成可能性の定義の中に入れているので,書き方が違うだけで述べていることは同じである.三本の枠を課した宣言はレートの符号を問わず,劣化を仮定した宣言だけが二つのレートを正にとる.借りた形の書き分けはこれに合わせてある.

形式化上の注記(本節と 14.6 節に共通). 三つの情報量は,形式化では相互情報量としてではなくエントロピーの差の形で書かれている.定理 1.4.3定理 1.3.4 の表現で書いたものが bcInfo₁bcInfo₂ (InformationTheory/Shannon/BroadcastChannel/Achievability/Setup.lean),を同じ形で書いたものが bcInfoJoint (InformationTheory/Shannon/BroadcastChannel/Achievability/ErrorAnalysis.lean) である.値は同じでも,宣言としては別の式である.14.6 節 命題 14.6.5 に紐付けた宣言も,この三つで書かれている.

劣化した通信路の逆定理

逆向き,すなわち達成できるレート対が上の二つの情報量で抑えられることを見る.抑えに現れる補助変数は,符号の側から作る.時刻ごとに,受け手のメッセージと,受け手が時刻までに見た出力とを束ねたものをとおく.これが上で借りた雲の役を果たす.

以下ではメッセージの対が一様分布に従うとして議論する.補題 14.5.7定理 14.5.8 はこれを主張の仮定として書いている.証明が一様性を実際に使うので落とせる条件ではないが,符号の側に課すものではない.定義 14.5.2 の平均誤り確率はメッセージの対ごとの誤り確率を一様な重みで平均した量なので,対に一様分布を与えると,受け手の誤り確率がちょうどになる.それを合わせるためにこちらが選ぶ分布である.

このあとの証明は,同じ計算を繰り返し使う.で条件付けたの分布がの値の一部だけで決まっているなら,条件をまで粗くしても同じ分布のままである,という計算である.先に切り出して名前を付けておく.

補題 14.5.6(条件を粗くする). を有限集合に値をとる確率変数とする(どちらも確率変数の組を一つにまとめたものでよい).の値の集合から有限集合への写像とし,の値との値の対に実数を対応させる写像をとる.を満たすどのと,のどの値についても

Pr[𝐴=𝑎𝐵=𝑏]=𝑓(𝑎,𝑔(𝑏))

が成り立つとする.このとき,を満たすどのと,のどの値についてもである.

証明. を満たすと,の値を固定する.事象は,を満たすについての事象の交わらない合併だから

Pr[𝐴=𝑎, 𝑔(𝐵)=𝑐]=𝑏:𝑔(𝑏)=𝑐Pr[𝐴=𝑎, 𝐵=𝑏]

である.右辺での項はだから落としてよい.残る項は,条件付き確率の定め方と仮定からに等しい.によらないので和の外に出せて,残るである.よってであり,両辺をで割れば主張を得る.

そのうえで,逆定理の証明に要る三つの評価を切り出しておく.

補題 14.5.7. をブロードキャスト通信路(定義 14.5.1),とし,を長さのブロードキャスト符号(定義 14.5.2)とする.上の一様分布に従う対とし,とおく.を,を与えたときの条件付き分布が定義 14.5.1)である確率変数の組とする.𝑌<𝑖1 :=(𝑌1,0,,𝑌1,𝑖1)と書く.このとき次の三つが成り立つ.

  1. である.
  2. を満たす各についてである.
  3. 定義 14.5.4 の意味で物理的に劣化しているなら,を満たす各についてである.

証明. 以下,条件付き確率をと書き,条件の側が正の確率をもつ点で考える.

まず,時刻の第出力の条件付き分布が同じ時刻の入力だけで決まることを見る.メッセージの対を固定すると符号語が定まり,仮定よりの条件付き分布はである.右辺は時刻ごとの因子の積だから,を与えたとき対たちは条件付き独立で,時刻の対の条件付き分布はである.その第成分についての周辺は 定義 14.5.1 よりだから

Pr[𝑌1,𝑖=𝑦Msg1=𝑚1, Msg2=𝑚2, 𝑌𝑖1=, 𝑌𝑖2=]=𝑊1(𝑦𝑥𝑖)

がどの値の組についても成り立つ(𝑌𝑖1は時刻以外の出力をすべて並べた組である).右辺は,すなわちの値だけの関数である.そこで 補題 14.5.6 を,にこの四つ組と読み替えて当てる.得られるのは「条件を四つ組から粗くしても,残した条件からの値が読めるかぎり,の条件付き分布はのままである」ということである.第と第の主張では,条件に残す組を変えてこれを使う.第の主張では,同じ 補題 14.5.6 を別の読み替えで当てる.

  1. を与えたとき,は条件付き独立で,第成分の条件付き分布はである.独立な成分の組のエントロピーは成分のエントロピーの和である(定理 1.2.3 のチェイン則と,独立なら条件付きエントロピーが周辺のエントロピーに一致すること(定理 1.3.4命題 1.3.2 の等号条件)を回繰り返せばよい).よってこの条件のもとでののエントロピーはである.定義 1.2.2 によりこれをについて平均すると

    𝐻(𝑌𝑛1Msg1,Msg2)=𝑛1𝑗=0𝔼[𝐻(𝑊1(𝑋𝑗))]

    である.いっぽう時刻について条件にだけを残すと,を与えたときのの条件付き分布はだから,定義 1.2.2 よりである.二つを合わせて第の主張を得る.

  2. 条件にを残す.はそのもの,の一部,の関数だから,これは四つ組から読める組であり,の値もそこから読める.この条件のもとでである点でのの条件付き分布はであり,そのエントロピーはである.定義 1.2.2 により平均するとであり,第の主張の後半で見たとおりこれはに等しい.

  3. 劣化の因子をとる.メッセージの対を固定したときのの条件付き分布はだから,を与えたときのの条件付き分布はである.時刻より前だけを取り出すと

    Pr[𝑌<𝑖2=𝑦<𝑖2Msg1,Msg2, 𝑌𝑛1=𝑦𝑛1]=𝑗<𝑖𝑊21(𝑦2,𝑗𝑦1,𝑗)

    であり,右辺はだけの関数である.そこで 補題 14.5.6 を,と読み替えて二度当てる.の行き先をにとった場合とにとった場合とで,どちらもが値から読めるのでは同じ写像でよい.よって

    Pr[𝑌<𝑖2=𝑦<𝑖2Msg2, 𝑌<𝑖1, 𝑌1,𝑖]=Pr[𝑌<𝑖2=𝑦<𝑖2Msg2, 𝑌<𝑖1]

    が成り立つ.これはを与えたときが条件付き独立だということだから,命題 1.4.2 の等号条件よりである.定理 1.4.3 をこの相互情報量に当てると

    𝐻(𝑌1,𝑖Msg2,𝑌<𝑖1)=𝐻(𝑌1,𝑖Msg2,𝑌<𝑖1,𝑌<𝑖2)

    であり,定理 1.2.4 より右辺は以下である.

形式化上の注記. 補題 14.5.7 に対応する単独の宣言はない.形式化の側では,第と第の主張にあたる条件付き独立を束ねた述語と,第の主張にあたる述語とが,次の 定理 14.5.8 に紐付けた宣言の内側で符号から組み立てられている.補題 14.5.7 に付した証明が,この主張の保証のすべてである.

定理 14.5.8(劣化したブロードキャスト通信路の逆定理). をブロードキャスト通信路(定義 14.5.1)で 定義 14.5.4 の意味で物理的に劣化しているものとし,とする.を長さのブロードキャスト符号(定義 14.5.2)でかつを満たすものとし,(Msg1,Msg2)𝑋𝑛補題 14.5.7 のとおりとする.𝑃𝑒,1 :=Pr[𝑑1(𝑌𝑛1) Msg1]とおき,各についてとおく.このとき

log𝑀1𝑛1𝑖=0𝐼(𝑋𝑖;𝑌1,𝑖𝑈𝑖)+𝐻𝑏(𝑃𝑒,1)+𝑃𝑒,1log(𝑀11),log𝑀2𝑛1𝑖=0𝐼(𝑈𝑖;𝑌2,𝑖)+𝐻𝑏(𝑃𝑒,2)+𝑃𝑒,2log(𝑀21)

である(例 1.1.2 の二値エントロピー).

証明. 受け手の側の評価は,ファノの不等式を出力列のチェイン則でほどけば出る. 定理 6.4.1 を,対象に,観測に,復号器にを置いて当てると

log𝑀2𝐼(Msg2;𝑌𝑛2)+𝐻𝑏(𝑃𝑒,2)+𝑃𝑒,2log(𝑀21)

である(は一様分布に従う.対が一様なら成分も一様だからである).第項を分解する.受け手の出力列に変数チェイン則(定理 1.5.2)を当て,命題 1.3.3命題 1.4.2 の対称性で向きをそろえると

𝐼(Msg2;𝑌𝑛2)=𝑛1𝑖=0𝐼(Msg2;𝑌2,𝑖𝑌<𝑖2)

である.各項に,から過去の出力を先に取り出すチェイン則(定理 1.5.1)を当てると

𝐼(𝑈𝑖;𝑌2,𝑖)=𝐼(𝑌<𝑖2;𝑌2,𝑖)+𝐼(Msg2;𝑌2,𝑖𝑌<𝑖2)

であり,命題 1.3.2 より第項は非負だからである.和をとって第の主張を得る.

受け手には,相手のメッセージをただで渡してよい. 渡したうえでの評価もそのままの上界になるので,そこから始める.定理 6.4.1 を,対象に,観測に対,復号器に「第成分だけを見てを当てる写像」を置いて当てる.その復号器の誤り確率はだから

log𝑀1𝐼(Msg1;(Msg2,𝑌𝑛1))+𝐻𝑏(𝑃𝑒,1)+𝑃𝑒,1log(𝑀11)

である.第項を書き換える.対からを先に取り出すチェイン則(定理 1.5.1)を当て,命題 1.3.3命題 1.4.2 の対称性で向きをそろえると

𝐼(Msg1;(Msg2,𝑌𝑛1))=𝐼(Msg1;Msg2)+𝐼(Msg1;𝑌𝑛1Msg2)

である.対が一様分布に従うので二つの成分は独立であり,命題 1.3.2 の等号条件より第項はである.

残りをエントロピーの差に直す.出力列の側をエントロピーの差に開く形(定理 1.4.3)を当て,命題 1.4.2 の対称性で向きをそろえると

𝐼(Msg1;𝑌𝑛1Msg2)=𝐻(𝑌𝑛1Msg2)𝐻(𝑌𝑛1Msg1,Msg2)

である.第項に 定理 1.2.3 のチェイン則を回繰り返して

𝐻(𝑌𝑛1Msg2)=𝑛1𝑖=0𝐻(𝑌1,𝑖Msg2, 𝑌<𝑖1)

を得る(条件にを置いたままチェイン則を当てている).第項には 補題 14.5.7 の第の主張を当てる.よって

𝐼(Msg1;𝑌𝑛1Msg2)=𝑛1𝑖=0(𝐻(𝑌1,𝑖Msg2,𝑌<𝑖1)𝐻(𝑌1,𝑖𝑋𝑖))

である.

劣化が効くのはここ一箇所で,条件を受け手の過去の出力から受け手の過去の出力に置き換えるところである. 各項の第成分に 補題 14.5.7 の第の主張を当てると,右辺は

𝑛1𝑖=0(𝐻(𝑌1,𝑖𝑈𝑖)𝐻(𝑌1,𝑖𝑋𝑖))

以下である.補題 14.5.7 の第の主張よりだから,各項はの形をしており,出力の側をエントロピーの差に開く形(定理 1.4.3)と 命題 1.4.2 の対称性よりに等しい.合わせて第の主張を得る.

形式化: bc_degraded_converse_from_code (ソース)

補助変数の作り方が,この証明のすべてである.受け手の側は,出力列に 定理 1.5.2 のチェイン則を当てて過去の出力を条件に置き,その条件をそのままの一部に取り込んだだけである.第6章 定理 6.4.3 は同じチェイン則を入力列のほうに当てて過去の入力を条件に置いており,割る対象が違う.受け手の側では逆に,が条件として引く形で現れる.同じが,片方の受け手にとっては運べる量そのもの,もう片方にとっては「すでに知っているぶん」になっている.二段の符号帳で雲と衛星を分けたのと,読み方が同じである.劣化を使った一箇所では,受け手の過去の出力を条件に置いたほうが受け手の過去の出力を置くより不確かさが残ること,つまり受け手の観測のほうが粗いことが効いている.

借りた 重ね合わせ符号化の達成可能性 の劣化を仮定した形と 定理 14.5.8 は,同じ二つの量を両側から挟んでいる.ただし挟み方はそろっていない.借用の側は補助変数の分布と入力への通信路を一組固定した形だが,定理 14.5.8 に現れるは符号から作られたもので,時刻ごとに違う分布をもつ.二つを同じ土俵に載せるには,時刻を一様に選ぶ変数をもう一段の補助変数として束ね,補助変数のとりうる値の個数を抑える段が要る.本書はその段を扱わない.

その段まで進めたときに何が言えるかが,本節の到達点である.道具をもう一つ借りる.劣化した通信路の容量領域,すなわち「劣化した通信路では,いまの二つの量が切る長方形を合わせた集合がちょうど容量領域である」という主張である.使う形を書いておく.

をブロードキャスト通信路(定義 14.5.1)で 定義 14.5.4 の意味で物理的に劣化しているものとし,がすべての𝑦1 Y1で成り立つとする.U𝑝𝑈と四つ組は,上で借りた 重ね合わせ符号化の達成可能性 と同じ形にとる.がどちらも全点で正である組をすべて動かし,そのつど二つの量が切る長方形

{(𝑅1,𝑅2)2:𝑅1𝐼(𝑋;𝑌1𝑈),  𝑅2𝐼(𝑈;𝑌2)}

を合わせて閉包をとると,その集合は 定義 14.5.3 の容量領域に等しい.長方形と呼ぶが,定義 14.5.3 と同じくレートの非負性を課していないので左下には限りがない.呼び名は第一象限で見える形から来ている.

当てる対象は 定義 14.5.3 の容量領域と上の長方形の合併だけで,本書のあとの主張がこれを引くことはない.

借りたままにするので,中で何が起きているかの筋書きだけ書いておく.内側は借りた 重ね合わせ符号化の達成可能性 の劣化を仮定した形が,外側は 定理 14.5.8 が与える.二つのあいだを埋めるのが,いま述べた二つの段,すなわち時刻を一様に選ぶ変数で束ねる段と,補助変数のとりうる値の個数を抑える段である.

本書はこの主張を証明しない.その二つの段をどちらも扱わないからである.本書が自分で保証するのは,借用の与える内側と 定理 14.5.8 の与える外側の二つまでである.

形式化: bc_lessNoisy_superposition_eq_capacity (ソース)

形式化上の注記. 宣言が仮定に置いているのは劣化ではなく,14.6 節 定義 14.6.1 の意味で受け手の側の雑音がより少ないことである.劣化していればこれが満たされる(14.6 節 定理 14.6.3)ので,宣言は借りた形より広い場合を覆っている.仮定をさらに 14.6 節 定義 14.6.2 の能力がより高い場合まで緩めた宣言 bc_moreCapable_superposition_eq_capacity (InformationTheory/Shannon/BroadcastChannel/Superposition/MoreCapable.lean) もあるが,そちらが容量領域に等しいと述べているのは,三本目の枠まで課した集合であって,上の長方形の合併ではない.クラスを広げると集合のほうも変わるので,二つは別の主張である.合併がわたる範囲も,どちらの宣言でも補助アルファベットをの形のものに固定してを動かす形になっている.

いま借りた 劣化した通信路の容量領域 と同じ集合が,次の 14.6 節でもう一度,別の表し方で現れる(系 14.6.7).そちらは本節の二つの量ではなく,受け手ごとに補助変数を一つずつ置いた形で書かれる.

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