7.3 アフィン変換と微分エントロピー
1.1 節で見たとおり,離散のエントロピーは値の読み替えで変わらない.サイコロの目1,…,6を色の名前に置き換えても𝐻(𝑋)は同じである.エントロピーが分布だけで決まる量だからで,値そのものはどこにも効いていない.微分エントロピーも密度だけで決まる量だが,値の読み替えに対するふるまいは同じではない.長さの単位を変えれば密度の高さが変わり,−∫𝑓log𝑓の値も動く.本節はその動き方をアフィン変換について決める.
例 7.1.3 と例 7.1.4 でℎ(𝑋) =log(長さ)の形が出たことを思い出すと,長さを|𝑐|倍すればℎはlog|𝑐|だけ増えるはずである.実際そのとおりになる.
道具は一つ借りる.1次式による 置換積分,すなわち𝑐 ≠0のときの𝑦 =(𝑥 −𝑏)/𝑐という置き換えである.𝑑𝑥 =|𝑐| 𝑑𝑦という関係と,積分域の対応(区間[𝑢,𝑣]の上での積分は[(𝑢 −𝑏)/𝑐, (𝑣 −𝑏)/𝑐]の上での積分に移り,区間でない集合𝐴の上での積分は,𝐴の各点を𝑦 =(𝑥 −𝑏)/𝑐で送った集合の上での積分に移る)を,微積分の計算規則として既知とする.ℝ𝑛の上でも同じ置き換えを成分ごとに行える.𝑐1,…,𝑐𝑛を0でない実数,𝑏1,…,𝑏𝑛を実数として𝑦𝑖 =(𝑥𝑖 −𝑏𝑖)/𝑐𝑖ととると𝑑𝑥 =|𝑐1⋯𝑐𝑛| 𝑑𝑦であり,直方体の上での積分は各辺をこの置き換えで送った直方体の上での積分に,直方体でない集合𝐴の上での積分は𝐴の各点を送った集合の上での積分に移る.当てる対象は,本節と 7.4 節と 7.5 節に現れる密度と,それに対数を掛けた関数,第8章に現れる密度とそれに対数を掛けた関数,および第8章 命題 8.4.1 の球の上での定数関数である.依存するのは補題 7.3.1・命題 7.3.2・命題 7.3.3 の証明,7.4 節の例 7.4.5 の証明,7.5 節の命題 7.5.3 と系 7.5.7 の証明,第8章の命題 8.1.4 と命題 8.4.1 の証明,および第16章 16.8 節の例 16.8.2 の証明である.最後のものは 16.7 節が微積分の計算規則としてこれを借り直したうえで,𝑦 =2 −𝑧ととって当てる.そちらでの当てる対象は,例 16.8.2 の和の密度にその対数を掛けた関数だけで,形は上に挙げたものと同じである.
アフィン変換した確率変数の密度
補題 7.3.1(アフィン変換の密度). 𝑋を密度𝑓をもつ実数値確率変数とし,𝑐 ≠0と𝑏を実数とする.このとき𝑐𝑋 +𝑏は密度をもち,その一つは
𝑥⟼1|𝑐|𝑓(𝑥−𝑏𝑐)である.
証明. 右辺の関数を𝑓𝑐と書く.𝑓𝑐は非負である.
任意の実数𝑢 ≤𝑣についてPr[𝑢 ≤𝑐𝑋 +𝑏 ≤𝑣]を求める.𝑐 >0のとき,この条件は𝑢−𝑏𝑐 ≤𝑋 ≤𝑣−𝑏𝑐と同値だから,定義 7.1.1 より
Pr[𝑢≤𝑐𝑋+𝑏≤𝑣]=∫(𝑣−𝑏)/𝑐(𝑢−𝑏)/𝑐𝑓(𝑦)𝑑𝑦である.借りた置換積分を𝑦 =(𝑥 −𝑏)/𝑐で使うと,積分区間は[𝑢,𝑣]に移り,𝑑𝑦 =𝑑𝑥/𝑐だから右辺は∫𝑣𝑢𝑓𝑐(𝑥) 𝑑𝑥に等しい.𝑐 <0のときは,条件が𝑣−𝑏𝑐 ≤𝑋 ≤𝑢−𝑏𝑐と同値になり,同じ置き換えで積分の向きが入れ替わるので,1/𝑐ではなく1/|𝑐|が出て,やはり∫𝑣𝑢𝑓𝑐(𝑥) 𝑑𝑥に等しい.
全積分が1であることも同じ置き換えで従う.∫ℝ𝑓𝑐(𝑥) 𝑑𝑥 =∫ℝ𝑓(𝑦) 𝑑𝑦 =1である.よって𝑓𝑐は定義 7.1.1 の意味で𝑐𝑋 +𝑏の密度である.◻
平行移動と定数倍
命題 7.3.2(平行移動での不変性). 𝑋を密度をもつ実数値確率変数,𝑏を実数とする.ℎ(𝑋)が定まるならばℎ(𝑋 +𝑏)も定まり,ℎ(𝑋 +𝑏) =ℎ(𝑋)である.
証明. 𝑋の密度を𝑓とする.補題 7.3.1 を𝑐 =1ととると,𝑋 +𝑏の密度の一つは𝑥 ↦𝑓(𝑥 −𝑏)である.借りた置換積分を𝑦 =𝑥 −𝑏で使うと
∫ℝ∣𝑓(𝑥−𝑏)log𝑓(𝑥−𝑏)∣𝑑𝑥=∫ℝ|𝑓(𝑦)log𝑓(𝑦)|𝑑𝑦であり,右辺は仮定より有限だからℎ(𝑋 +𝑏)は定まる.同じ置き換えで符号を付けた積分も等しいのでℎ(𝑋 +𝑏) =ℎ(𝑋)である.◼
命題 7.3.3(定数倍). 𝑋を密度をもつ実数値確率変数,𝑐 ≠0を実数とする.ℎ(𝑋)が定まるならばℎ(𝑐𝑋)も定まり
ℎ(𝑐𝑋)=ℎ(𝑋)+log|𝑐|である.
証明. 𝑋の密度を𝑓とする.補題 7.3.1 を𝑏 =0ととると,𝑐𝑋の密度の一つは𝑥 ↦1|𝑐|𝑓(𝑥/𝑐)である.借りた置換積分を𝑦 =𝑥/𝑐で使うと𝑑𝑥 =|𝑐| 𝑑𝑦で,
−∫ℝ1|𝑐|𝑓(𝑥𝑐)log𝑓(𝑥/𝑐)|𝑐|𝑑𝑥=−∫ℝ𝑓(𝑦)(log𝑓(𝑦)−log|𝑐|)𝑑𝑦となる.同じ置き換えで絶対値をとった積分も移せて,右辺は∫ℝ|𝑓log𝑓| +|log|𝑐||で抑えられるから有限であり,ℎ(𝑐𝑋)は定まる.値は,∫𝑓 =1より右辺がℎ(𝑋) +log|𝑐|に等しいことから従う.◼
系 7.3.4(アフィン変換). 𝑋を密度をもつ実数値確率変数,𝑐 ≠0と𝑏を実数とする.ℎ(𝑋)が定まるならばℎ(𝑐𝑋 +𝑏)も定まり
ℎ(𝑐𝑋+𝑏)=ℎ(𝑋)+log|𝑐|である.
証明. 命題 7.3.3 よりℎ(𝑐𝑋)は定まってℎ(𝑐𝑋) =ℎ(𝑋) +log|𝑐|である.これに命題 7.3.2 を確率変数𝑐𝑋について当てると,ℎ(𝑐𝑋 +𝑏)が定まってℎ(𝑐𝑋)に等しい.◼
系 7.3.4 は「微分エントロピーは目盛の取り替えを見ている」ことを言っている.𝑋をどこへ動かしても(𝑏)値は変わらないが,何倍に引き伸ばすか(𝑐)でlog|𝑐|だけ動く.長さをメートルで測っていたのをセンチメートルに変えれば𝑐 =100で,ℎはlog100だけ増える.7.1 節の幅の読みに乗せれば,底を2にとって2ℎ(𝑐𝑋+𝑏) =|𝑐| 2ℎ(𝑋)であり,実効的な幅がちょうど|𝑐|倍になっている.同じ確率変数が,測り方を変えただけで違う値をもつということである.ℎ(𝑋)の数値そのものを「𝑋のもつ情報量」と読むなら,測り方を変えるだけでその情報量が変わってしまう.
証明はすでに置換積分で済んでいるので,ここではlog|𝑐|という差を定理 7.1.6 の言葉で読み直しておく.𝑋が定理 7.1.6 の仮定を満たす,すなわちある有界閉区間の上で密度が連続でその外で0であるとき,補題 7.3.1 より𝑐𝑋の密度も対応する区間の上で連続でその外で0だから,𝑐𝑋にも定理 7.1.6 が当たる.𝑐𝑋を幅𝛿の区間で読み取るのは𝑋を幅𝛿/|𝑐|の区間で読み取るのと同じことなので,読み取った値のエントロピーは両者で等しい.定理 7.1.6 は微分エントロピーを𝐻 +log(幅)の極限として与えているから,幅が|𝑐|分の1になったぶんのlog|𝑐|が,そのまま差として残る.離散のエントロピーが値の読み替えで動かなかったのは,値の読み替えが「どの区間に入ったか」を変えないからである.引き伸ばしは,同じ幅の区間との関係を変えるので事情が違う.
意味をもつのは,同じ目盛で測った二つの微分エントロピーの差である.𝑋と𝑌を同時に𝑐倍すればℎ(𝑋)とℎ(𝑌)はどちらもlog|𝑐|だけ増え,差は変わらない.7.5 節の相対エントロピーと相互情報量が差の形をしているのは偶然ではない.そこでは離散のときと同じ意味づけが戻ってくる.
例 7.3.5(一様分布). 𝑈が区間[0,1]の上の一様分布に従い,𝑤 >0とする.このとき𝑤𝑈は長さ𝑤の区間の上の一様分布に従い,ℎ(𝑤𝑈) =log𝑤である.
証明. 𝑈の密度は[0,1]の上で1,その外で0である.補題 7.3.1 を𝑐 =𝑤,𝑏 =0ととると,𝑤𝑈の密度の一つは[0,𝑤]の上で1/𝑤,その外で0であり,これは長さ𝑤の区間の上の一様分布の密度である.例 7.1.3 を𝑤 =1に当てるとℎ(𝑈) =log1 =0だから,命題 7.3.3 よりℎ(𝑤𝑈) =0 +log𝑤 =log𝑤である.◼
例 7.3.6(ガウス分布). 𝑍がN(0,1)に従い,𝜇を実数,𝜎 >0とする.このとき𝜎𝑍 +𝜇はN(𝜇,𝜎2)に従い,ℎ(𝜎𝑍 +𝜇) =12log(2𝜋𝑒𝜎2)である.
証明. 補題 7.3.1 を𝑐 =𝜎,𝑏 =𝜇ととると,𝜎𝑍 +𝜇の密度の一つは
1𝜎𝑔0,1(𝑥−𝜇𝜎)=1𝜎√2𝜋exp(−(𝑥−𝜇)22𝜎2)=𝑔𝜇,𝜎2(𝑥)である(𝑔は定義 7.2.1 の記号).よって𝜎𝑍 +𝜇はN(𝜇,𝜎2)に従う.微分エントロピーは,定理 7.2.2 をN(0,1)に当ててℎ(𝑍) =12log(2𝜋𝑒)を得たうえで,系 7.3.4 より
ℎ(𝜎𝑍+𝜇)=12log(2𝜋𝑒)+log𝜎=12log(2𝜋𝑒𝜎2)となる.◼
例 7.3.6 の値は定理 7.2.2 がN(𝜇,𝜎2)について直接与えたものと一致する.定理 7.2.2 は密度の対数を平均する計算,例 7.3.6 は標準ガウス分布の値に引き伸ばしのぶんを足す計算で,別々の道から同じ値に着いている.例 7.2.6 で見た「一様分布とガウス分布の差が𝜎によらない」ことも,ここから読める.どちらも𝜎倍で作れる分布なので,𝜎を変えると両方がlog𝜎ずつ動き,差は動かない.
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