8.1 ガウス通信路
第6章の通信路は,入力も出力も有限個の記号だった.遷移確率𝑊(𝑦 ∣𝑥)を並べた表がその全体で,容量は有限個の数の上での最大化問題だった.しかし実際に信号を運ぶ物理的な経路は,電圧や電磁波の振幅といった実数を運ぶ.そこに乗る雑音も実数値で,しかも多くの小さな擾乱が重なった結果として生じる.本章が扱うのは,出力が入力にそういう雑音を足したものになる通信路であり,雑音の分布はガウス分布にとる.理由は二つある.一つはいま述べた成り立ちで,多くの小さな擾乱の和がガウス分布に近づくことは中心極限定理として知られている.もう一つは,散らばりの大きさを固定すると微分エントロピーが上から抑えられるという第7章 定理 7.2.4 の性質が,8.2 節で容量の上界を与えるところまでそのまま効くことである.
第7章で作った量は,そのまま当てられる.出力の散らばりの広さを微分エントロピーℎ(𝑌)で測り,入力を知ってもなお残る散らばりを差し引けば,通信路が運んだ情報になる.第6章 命題 6.1.3 の𝐼(𝑝;𝑊) =𝐻(𝑌) −𝐻(𝑌 ∣𝑋)という読み方が,𝐻をℎに取り替えてそのまま生きる.ただし差し引くべき量,すなわち条件付き微分エントロピーは,第7章が用意しなかった.本節はまずそれを定義し,ガウス通信路ではその値が入力によらない定数になることを見る.
本章ではlogの底を2にとる.8.3 節以降で2𝑛𝑅の形の量を扱うので,第6章と同じく指数と対数の底をそろえておくと式が読みやすい.第7章の等式・不等式は底を1より大きくとるかぎりそのまま成り立つ(7.1 節)ので,底を決めても引き継ぎに支障はない.
記号を二つ断っておく.𝑃は本章を通じて信号の電力を表す実数である.第3章は同じ字で遷移確率を,第10章は分布を表しており,どちらも裸の𝑃を書くので,引数の形では見分けられない.電力を𝑃と書くのはこの分野の標準なので改名しない.本章に現れる裸の𝑃はつねに電力である.添字の付いた𝑃𝑒系(定義 8.3.1)は誤り確率を,𝑃𝑖系(8.6 節)は各通信路に配る電力を表す.𝑁は雑音の分散を表す実数で,こちらは第2章の個数𝑁(𝑎 ∣𝑥)や第4章の個数𝑁(𝑚)と違って引数をとらない.
通信路の定義
定義 8.1.1(ガウス通信路). 𝑁 >0とする.ガウス通信路 とは,入力𝑥 ∈ℝに対して出力の分布をN(𝑥,𝑁)(定義 7.2.1)と定める対応である.𝑁をこの通信路の 雑音の分散 と呼ぶ.長さ𝑛 ≥1の入力𝑥𝑛 =(𝑥0,…,𝑥𝑛−1) ∈ℝ𝑛に対する出力𝑦𝑛 ∈ℝ𝑛の結合密度は
𝑛−1∏𝑖=0𝑔𝑥𝑖,𝑁(𝑦𝑖)とする(𝑔は定義 7.2.1 の記号).入力に密度𝑓をもつ実数値確率変数𝑋を与えたとき,入力と出力の対(𝑋,𝑌)の 結合密度 を
𝑓(𝑥)𝑔𝑥,𝑁(𝑦)((𝑥,𝑦)∈ℝ2)と定め,この𝑌を 出力 と呼ぶ.出力から入力を引いた𝑍 :=𝑌 −𝑋を 雑音 と呼び,入力と出力の関係を
𝑌=𝑋+𝑍と書く.
定義 7.2.1 の密度を書き下すと𝑔𝑥,𝑁(𝑦) =𝑔0,𝑁(𝑦 −𝑥)である.すなわち,入力𝑥を送ったときの出力の分布は,平均0分散𝑁のガウス分布を𝑥だけ平行移動したものにほかならない.ここでの𝑥は,定義 8.1.1 が通信路への入力として固定した一つの実数であって,確率変数𝑋を観測して得た値ではない.したがってこの読み下しは,確率0の事象で条件付けることを含まない(その条件付けを本書がどう避けるかは,次に条件付き微分エントロピーを定義するところで述べる).雑音の側で読むと,実数𝑥を入れたときの𝑍 =𝑌 −𝑥の密度は𝑧 ↦𝑔𝑥,𝑁(𝑧 +𝑥) =𝑔0,𝑁(𝑧)で,𝑥を含まない.𝑌 =𝑋 +𝑍という式そのものは𝑍 :=𝑌 −𝑋を移項しただけのもので,それだけでは何も言っていない.内容があるのは,どの入力を選んでも雑音の分布がN(0,𝑁)のままで,出力はそこへ入力を足しただけのものになる,といういま見たことのほうである.8.3 節と 8.4 節で符号を扱うときも,長さ𝑛の符号語に対する出力はその符号語に雑音の列を足したものになる.長さ𝑛の入力に対する結合密度を積の形にとったのは,各時刻の雑音がほかの時刻の入出力に依存しないということで,定義 6.1.1 が積の形で書いた記憶のなさと同じ条件である.入力と出力の対の結合密度を𝑓(𝑥)𝑔𝑥,𝑁(𝑦)と定めたのも,定義 6.1.1 が結合分布を𝑝(𝑥)𝑊(𝑦 ∣𝑥)と定めたのと同じ形である.
入力に何の制限も置かなければ何が起きるかを,見当として見ておく.出力の散らばりを抑えているのは雑音だけなので,入力の振れ幅を大きくとれば,離れた二つの入力は出力を見るだけで区別がつくようになる.二つに限らない.雑音の散らばりにくらべて十分に離れた点を𝑀個並べれば,どの点を送ったかがほぼ確実に読み取れてlog𝑀ビットが運べ,𝑀はいくらでも大きくとれる.ここまでは見当であって,メッセージがその個数だけ区別できることを示したわけではない.入力に制限を置く理由としてはこれで足りるので,そこで送る信号の電力を抑える.𝔼[𝑋2]を電力と呼ぶのは,𝑥が電圧や電流の振幅を表すとき,単位時間あたりに消費されるエネルギーが𝑥2に比例するからである.1回の使用については入力の2乗の平均𝔼[𝑋2]を𝑃以下にすること,長さ𝑛のブロックについては各符号語の2乗和を𝑛𝑃以下にすることが,本章で置く制約である(前者を 8.2 節,後者を 8.3 節で使う).どちらも「1回の使用あたりに使える電力が𝑃まで」という同じ制限を,一つの確率変数と一本の符号語のそれぞれについて書いたものである.
条件付き微分エントロピー
第7章 7.4 節は,条件付き微分エントロピーを用意しなかった.その定義に𝑋 =𝑥を知ったときの𝑌の密度が要り,条件付ける相手が確率0の事象になるからである.差の形で書けば,この困難を通らずに定義できる.離散のときの𝐻(𝑌 ∣𝑋) =𝐻(𝑋,𝑌) −𝐻(𝑋)(定理 1.2.3 のチェイン則)を,そのまま定義に据えればよい.
定義 8.1.2(条件付き微分エントロピー). 𝑋と𝑌を実数値確率変数とし,(𝑋,𝑌)が結合密度をもつとする.ℎ(𝑋,𝑌)とℎ(𝑋)がどちらも定まるとき,𝑋を与えたときの𝑌の 条件付き微分エントロピー を
ℎ(𝑌∣𝑋):=ℎ(𝑋,𝑌)−ℎ(𝑋)で定め,このときℎ(𝑌 ∣𝑋)が 定まる という.
定義 8.1.2 が測っているのは,二つをまとめて見たときの散らばりから,𝑋だけを見たときの散らばりを差し引いた残りである.𝑋を知ったあとに𝑌に残る散らばり,と読める.ℎが負になりうる(例 7.1.3)ので,ℎ(𝑌 ∣𝑋)も負になりうる.定義 8.1.2 が要求しているのは対が結合密度をもつことである.8.3 節で符号を扱うときはこの前提が満たされないことを見るので,そこでは別の形の道具を使う.
命題 8.1.3. 𝑋と𝑌を実数値確率変数とし,(𝑋,𝑌)が結合密度をもつとする.ℎ(𝑋,𝑌),ℎ(𝑋),ℎ(𝑌)がいずれも定まるならば,ℎ(𝑌 ∣𝑋)と𝐼(𝑋;𝑌)は定まり
𝐼(𝑋;𝑌)=ℎ(𝑌)−ℎ(𝑌∣𝑋)≥0である.
証明. 仮定より定義 8.1.2 の条件が満たされ,ℎ(𝑌 ∣𝑋) =ℎ(𝑋,𝑌) −ℎ(𝑋)が定まる.同じ仮定は定理 7.5.6 の仮定でもあるから,𝐼(𝑋;𝑌)は定まって𝐼(𝑋;𝑌) =ℎ(𝑋) +ℎ(𝑌) −ℎ(𝑋,𝑌) ≥0である.右辺のℎ(𝑋) −ℎ(𝑋,𝑌)は−ℎ(𝑌 ∣𝑋)にほかならない.◼
命題 8.1.3 は,第6章 命題 6.1.3 の𝐼(𝑝;𝑊) =𝐻(𝑌) −𝐻(𝑌 ∣𝑋)を微分エントロピーで書き直したものである.読み方も同じで,運べた情報とは出力の散らばりから雑音の分を差し引いた残りである.離散のときと違うのは,ℎ(𝑌)もℎ(𝑌 ∣𝑋)もそれ単独では散らばりの大きさとして読めない(7.1 節)ことで,読めるのは差のほうだけである.
雑音の分は入力によらない
ガウス通信路では,差し引くべきℎ(𝑌 ∣𝑋)が入力によらない一つの定数になる.雑音の分布が入力によって平行移動するだけで,形が変わらないからである.
証明のために道具を二つ借りる.一つめは 累次積分 で,𝑘 ≥2としてℝ𝑘の座標を二つの組に分けるとき,ℝ𝑘上の実数値関数𝑢が非負であるか∫ℝ𝑘|𝑢| <∞であるならば,ℝ𝑘全体での積分は,片方の組について先に積分してからもう片方の組について積分したものに等しく,𝑢が非負のときは両辺が同時に+∞になることを許す,という積分の事実である.𝑘 =2で書けば
∫ℝ2𝑢(𝑥,𝑦)𝑑𝑥𝑑𝑦=∫ℝ(∫ℝ𝑢(𝑥,𝑦)𝑑𝑦)𝑑𝑥である.当てる対象は,定義 8.1.1 の結合密度𝑓(𝑥)𝑔𝑥,𝑁(𝑦)に対数や2次以下の多項式を掛けた関数と,その絶対値と,8.3 節に現れるガウス密度の積と,8.4 節に現れる立方体の上の定数関数である.依存するのは命題 8.1.4 と,8.2 節の定理 8.2.2 と,8.3 節の補題 8.3.3 と,8.4 節の命題 8.4.1 の証明である.二つめは学部の確率で扱う ガウス分布の畳み込み で,𝜎21,𝜎22 >0と実数𝜇について,どの実数𝑦に対しても
∫ℝ𝑔𝜇,𝜎21(𝑥)𝑔𝑥,𝜎22(𝑦)𝑑𝑥=𝑔𝜇,𝜎21+𝜎22(𝑦)が成り立つ,という事実である(独立なガウス分布に従う二つの確率変数の和がふたたびガウス分布に従い,分散が足し算になることの,密度による言い換えである).当てる対象は定義 7.2.1 のガウス密度だけで,依存するのは例 8.1.6 の証明と,同じ事実を 9.4 節で借り直している第9章の命題 9.4.4・命題 9.4.6 の証明と,9.4 節の宣言を確率変数の形のまま引き直している第16章の例 16.7.9・命題 16.8.1 の証明である.ただしあちらが借りるのは確率変数の形で,和だけでなく差についても同じことをあわせて借りるので,借りる形は 9.4 節の宣言のほうが広い.第16章が引くのは和についてだけなので,そのぶんは 9.4 節より狭い.
命題 8.1.4. 𝑁 >0とし,密度𝑓をもつ実数値確率変数𝑋をガウス通信路(定義 8.1.1)に与えて出力𝑌を得るとする.ℎ(𝑋)が定まるならばℎ(𝑋,𝑌)とℎ(𝑌 ∣𝑋)は定まり
ℎ(𝑋,𝑌)=ℎ(𝑋)+12log(2𝜋𝑒𝑁),ℎ(𝑌∣𝑋)=12log(2𝜋𝑒𝑁)である.
証明. 筋は2行で書ける.結合密度の対数がlog𝑓(𝑥)とlog𝑔𝑥,𝑁(𝑦)の和に分かれ,第2項の積分が𝑥によらない,というだけである.以下は,その計算が許されることを確かめながら進める.
定義 8.1.1 より(𝑋,𝑌)の結合密度は𝐹(𝑥,𝑦) :=𝑓(𝑥) 𝑔𝑥,𝑁(𝑦)である.これがℝ2上の密度であることを見る.非負であり,借りた累次積分と,7.2 節で借りたガウス分布の基本性質から得られる∫ℝ𝑔𝑥,𝑁(𝑦) 𝑑𝑦 =1により
∫ℝ2𝐹(𝑥,𝑦)𝑑𝑥𝑑𝑦=∫ℝ𝑓(𝑥)(∫ℝ𝑔𝑥,𝑁(𝑦)𝑑𝑦)𝑑𝑥=∫ℝ𝑓(𝑥)𝑑𝑥=1だからである.
対数を二つに分ける.𝐹(𝑥,𝑦) >0の点では𝑓(𝑥) >0であり,𝑔𝑥,𝑁(𝑦)は実軸のすべての点で正だから,そこでlog𝐹(𝑥,𝑦) =log𝑓(𝑥) +log𝑔𝑥,𝑁(𝑦)である.𝐹(𝑥,𝑦) =0の点では定義 7.1.2 の約束により𝐹log𝐹 =0である.
第2の項の積分が入力によらないことを見る.定理 7.2.2 をN(𝑥,𝑁)に当てると,∫ℝ|𝑔𝑥,𝑁log𝑔𝑥,𝑁|は有限であり
−∫ℝ𝑔𝑥,𝑁(𝑦)log𝑔𝑥,𝑁(𝑦)𝑑𝑦=12log(2𝜋𝑒𝑁)である.右辺は𝑥を含まない.また 7.3 節で借りた置換積分を𝑢 =𝑦 −𝑥(𝑐 =1,𝑏 =𝑥)という置き換えで使うと,𝑔𝑥,𝑁(𝑦) =𝑔0,𝑁(𝑦 −𝑥)だから
∫ℝ𝑔𝑥,𝑁(𝑦)∣log𝑔𝑥,𝑁(𝑦)∣𝑑𝑦=∫ℝ𝑔0,𝑁(𝑢)∣log𝑔0,𝑁(𝑢)∣𝑑𝑢=:𝐴であり,この𝐴も𝑥によらない有限の値である.
ℎ(𝑋,𝑌)が定まることを見る.|log𝐹| ≤|log𝑓(𝑥)| +|log𝑔𝑥,𝑁(𝑦)|だから,借りた累次積分を非負関数に当てて
∫ℝ2∣𝐹log𝐹∣≤∫ℝ𝑓(𝑥)∣log𝑓(𝑥)∣(∫ℝ𝑔𝑥,𝑁(𝑦)𝑑𝑦)𝑑𝑥+∫ℝ𝑓(𝑥)(∫ℝ𝑔𝑥,𝑁(𝑦)∣log𝑔𝑥,𝑁(𝑦)∣𝑑𝑦)𝑑𝑥を得る.右辺の第1項は∫ℝ|𝑓log𝑓|で,ℎ(𝑋)が定まることから有限,第2項は𝐴∫𝑓 =𝐴で有限である.よってℎ(𝑋,𝑌)は定まる.
値を求める.いま見たとおり積分は絶対収束するから,借りた累次積分を𝐹log𝐹に当てて二つの項に分けてよく
−ℎ(𝑋,𝑌)=∫ℝ𝑓(𝑥)log𝑓(𝑥)(∫ℝ𝑔𝑥,𝑁(𝑦)𝑑𝑦)𝑑𝑥+∫ℝ𝑓(𝑥)(∫ℝ𝑔𝑥,𝑁(𝑦)log𝑔𝑥,𝑁(𝑦)𝑑𝑦)𝑑𝑥である.第1項は∫𝑓log𝑓 = −ℎ(𝑋)に等しく,第2項は上で見た値により−12log(2𝜋𝑒𝑁)∫𝑓 = −12log(2𝜋𝑒𝑁)に等しい.符号を戻すとℎ(𝑋,𝑌) =ℎ(𝑋) +12log(2𝜋𝑒𝑁)である.最後に定義 8.1.2 を当てるとℎ(𝑌 ∣𝑋) =ℎ(𝑋,𝑌) −ℎ(𝑋) =12log(2𝜋𝑒𝑁)を得る.◼
系 8.1.5. 𝑁 >0とし,密度をもつ実数値確率変数𝑋をガウス通信路(定義 8.1.1)に与えて出力𝑌を得るとする.ℎ(𝑋)とℎ(𝑌)がどちらも定まるならば,𝐼(𝑋;𝑌)は定まり
𝐼(𝑋;𝑌)=ℎ(𝑌)−12log(2𝜋𝑒𝑁)である.
系 8.1.5 が本章のこれ以降を動かす.運べる情報を大きくしたければ,ℎ(𝑌)を大きくするほかに手はない.差し引かれる量は通信路の雑音だけで決まっていて,入力の選び方では動かないからである.そしてℎ(𝑌)をどこまで大きくできるかは,第7章がすでに答えている.出力の分散が抑えられているかぎり微分エントロピーには上限があり(定理 7.2.4),その上限をガウス分布が達成する(系 7.2.5).電力制約が出力の分散を抑え,最大エントロピー性が上限を与える,という二段構えが 8.2 節の内容である.
例 8.1.6(ガウス入力). 𝑁 >0,𝑃 >0とし,𝑋がN(0,𝑃)に従うとしてガウス通信路(定義 8.1.1)に与え,出力𝑌を得るとする.このとき𝑌はN(0,𝑃 +𝑁)に従い,𝐼(𝑋;𝑌)は定まって
𝐼(𝑋;𝑌)=12log(1+𝑃𝑁)である.
証明. 𝑋の密度は𝑔0,𝑃だから,定義 8.1.1 より(𝑋,𝑌)の結合密度は𝑔0,𝑃(𝑥)𝑔𝑥,𝑁(𝑦)である.7.4 節で借りた周辺密度の存在により,その第2周辺密度(定義 7.4.1)は𝑌の密度であり,借りたガウス分布の畳み込みによりそれは
∫ℝ𝑔0,𝑃(𝑥)𝑔𝑥,𝑁(𝑦)𝑑𝑥=𝑔0,𝑃+𝑁(𝑦)である.よって𝑌はN(0,𝑃 +𝑁)に従う.
定理 7.2.2 よりℎ(𝑋)とℎ(𝑌)は定まってℎ(𝑋) =12log(2𝜋𝑒𝑃),ℎ(𝑌) =12log(2𝜋𝑒(𝑃 +𝑁))である.系 8.1.5 より
𝐼(𝑋;𝑌)=12log(2𝜋𝑒(𝑃+𝑁))−12log(2𝜋𝑒𝑁)=12log𝑃+𝑁𝑁であり,右辺は12log(1 +𝑃/𝑁)である.◼
幅で読む. 例 8.1.6 の値は,2ℎをその分布の実効的な幅と読む物差し(7.1 節)を当てると読み下せる.底が2なので,出力の実効的な幅は2ℎ(𝑌) =√2𝜋𝑒(𝑃+𝑁)であり,入力を知ったあとに残る散らばりの幅は2ℎ(𝑌∣𝑋) =√2𝜋𝑒𝑁である.系 8.1.5 の右辺はこの二つの幅の比の対数にほかならず,比は√(𝑃+𝑁)/𝑁 =√1+𝑃/𝑁である.平方根が12を,二つの分散の比が「1 +」を出している.測っているのは雑音の幅の中に信号の幅がいくつ入るかではなく,出力全体の幅が雑音の幅の何倍かなので,電力を0に近づければ比は1に近づき,運べる量も0に近づく.同じ比の読み方が 8.4 節でもういちど,こんどは体積の比として現れる.
比で決まる. 例 8.1.6 の値は𝑃と𝑁の比だけで決まっていて,電力と雑音を同じ倍率で大きくしても変わらない.この比𝑃/𝑁を 信号対雑音比 と呼ぶ.目盛を取り替えても相互情報量が動かないこと(系 7.5.7)が,ここに具体的な形で現れている.入力も雑音も同じ倍率𝑐で引き伸ばせば,ℎ(𝑌)はlog|𝑐|だけ増える(系 7.3.4)が,雑音の分散が𝑐2𝑁になるので差し引くℎ(𝑌 ∣𝑋) =12log(2𝜋𝑒𝑁)も同じだけ増え,系 8.1.5 の差は動かない.
規模感. 底を2にとって𝑃/𝑁 =1なら𝐼(𝑋;𝑌) =12log22 =0.5ビット,𝑃/𝑁 =3なら1ビット,𝑃/𝑁 =10なら約1.7297ビット,𝑃/𝑁 =100なら約3.3291ビットである.信号対雑音比を10倍にしても運べる量が10倍になるわけではなく,増えるのは高々12log210 =1.6610ビットである(𝑃/𝑁 =1から10で1.2297ビット,10から100で1.5994ビットの増加であり,比が大きいほどこの値に近づく).比の対数で効くので,効くのは掛け算ではなく足し算のほうである.第6章の二元対称通信路が反転確率0.1で約0.531ビットだった(例 6.1.8)のと並べると,信号対雑音比1のガウス通信路がおよそそれと同じくらいの通信路にあたる.
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