11.5 Bayes 誤り確率と Chernoff 情報

前節は二つの誤りを対等に扱わなかった.第一種の誤りを一定の水準で抑え,そのうえで第二種の誤りだけを小さくしたからである.どちらを帰無仮説にするかを決める理由がないときには,この非対称を持ち込みたくない.そこで立て方を変える.真の分布がのどちらであるかを先に確率ずつで選んでおき,出てきた系列を見てそれを当てる.誤る確率は二種類の誤りをずつの重みで足したものになり,これを小さくすることが目標になる.本節はこの誤り確率も,が違う分布であればとともに指数で落ちること,そしてその指数がとは別の量になることを示す.

答え方を一つ決める.事前確率が等しいのだから,系列を見てを比べ,大きいほうの仮説を答えることにする.真がと答えてしまうのはとなるが出たときで,その確率はで測る.真がと答えてしまうのはとなるが出たときで,その確率はで測る.どちらの場合でも,が誤りに寄与させるのはの小さいほうである.事前確率のを掛けてについて足すと,次の形になる.

Bayes 誤り確率

定義 11.5.1(Bayes 誤り確率). を空でない有限アルファベット,𝑃上の分布,𝑃𝑛をそれぞれの重の積分布とし,とする.真の分布がから事前確率ずつで選ばれるとし,系列に対してならばを,そうでなければを答える決定を考える.この決定の Bayes 誤り確率

𝑃(𝑛)𝑒:=12𝑥X𝑛min(𝑃𝑛({𝑥}),𝑄𝑛({𝑥}))

で定める.

右辺の各項は,その系列が出たときに払う誤りの確率である(添字のは誤りを表す固定の文字で,本節の後半で置く中間分布定義 11.5.9)のように実数のパラメータを添えたものではない).が離れているほど,どの系列でも二つの確率の一方が他方より格段に小さくなり,小さいほうだけを足した和は小さくなる.逆になら各項はそのもので,その総和はだからである.すなわち,二つの仮説がまったく同じで見分けようがないときの誤り確率が,当てずっぽうと同じになる.この決定がほかのどの決定よりも誤り確率が小さいことは本書では示さない.示すには決定の全体をわたって最小をとる形に問題を立て直す必要があり,本節が測るのは上の決定の誤り確率である.形式化にもその形の宣言は無い.

形式化: bayesErrorMinPmf (ソース)

実数の指数をもつべき乗

このあと置く量の式には,実数の指数をもつべき乗が現れる.底がになる場合まで含めて,先に定めておく.

定義 11.5.2(実数の指数をもつべき乗). 正の実数と実数に対し

𝑢𝑠:=𝑒𝑠log𝑢

と定める(本章の底は自然対数なので,のべき乗は指数関数そのものである).また非負の実数に対しを,のときのときと定める.負のに対するは定めない.

定め方から,正のについてはである.また指数法則から,正のについてが従う.と定めたのは,のときが正のでつねにになるので,底をまで動かしてもその値を保つためである.

Chernoff の分配和

誤り確率の各項を上から抑えるところから始める.は,どのでも以下である(補題 11.5.4).この右辺は座標ごとの積だから,について足すと文字ぶんの和の乗になる(補題 11.5.5).つまり誤り確率の上界は,文字ぶんの和ひとつで決まり,しかも乗の形で決まる.その文字ぶんの和が次に定めるであり,を上界がいちばん小さくなるように選んだときの指数が,本節の主役である Chernoff 情報になる.

定義 11.5.3(Chernoff の分配和と Chernoff 情報). を空でない有限アルファベット,𝑃上の全点で正の分布とし,べき乗を 定義 11.5.2 のとおりとする.実数に対し

Z(𝜆):=𝑎X𝑃(𝑎)1𝜆𝑄(𝑎)𝜆

Chernoff の分配和 と呼ぶ.は正の数の有限和だから正であり,が定まる.Chernoff 情報

𝐶(𝑃,𝑄):=inf0𝜆1logZ(𝜆)

で定める.

は,各文字での値を重みで幾何的に混ぜ,足し合わせたものである.からへ動かすと重みはの側からの側へ移り,を止めるごとに,混ぜた値をで割って総和をにした分布が一つ定まる(花文字のは,第10章 定義 10.2.1 の分配関数とは別の記号である.分母という役割は同じで,違いは重みを付ける基準が一様分布ではなくであることである).その分布が 定義 11.5.9 の中間分布であり,本節の後半で主役になる.本節のは,こうしてを混ぜる度合いを表す実数である(第10章 10.4 節が Lagrange 乗数に使うとも,補題 1.1.9第9章 補題 9.3.1 が凸結合の重みに使うとも別である.本章では凸結合の重みにはを当てる).定義 11.5.3 の下限が実際に最小値として達成されること,したがってが実数として定まることは 命題 11.5.7 で示す(星が付くは,第6章 定義 6.1.4 の通信路容量第8章 定義 8.2.1 のガウス通信路の容量とは別の量である).

形式化: chernoffZSumchernoffInfo (ソース)

二つの道具

補題 11.5.4(加重相加相乗平均と最小値の上界). 𝑢 0を実数,とし,べき乗を 定義 11.5.2 のとおりとすると

𝑢1𝜃𝑣𝜃(1𝜃)𝑢+𝜃𝑣

である.またである.

証明. どちらの主張もの場合を先に片づける.のときは左辺が,右辺がで,第の主張は等号として成り立ち,より第の主張も成り立つ.のときも同様である.またはのときは,定義 11.5.2 よりであり,右辺は非負の数の和だから第の主張が成り立ち,だから第の主張も成り立つ.

以下とする.1.1 節で認めたの狭義凹性から出た有限 Jensen の不等式(補題 1.1.9)を,と重みに当てると

(1𝜃)log𝑢+𝜃log𝑣log((1𝜃)𝑢+𝜃𝑣)

である.左辺はに等しい.ここで,二つの正の数について対数の値がならもとの数もである.というのも,もとの数が真に大きければ対数も真に大きいからである.これを当てて第の主張を得る.

の主張に移る.の場合を見れば足りる.を入れ替えてに取り替えると主張の両辺が同じ形になるので,の場合はそこから出るからである.ならであり,を掛けてを足すと

log𝑢=(1𝜃)log𝑢+𝜃log𝑢(1𝜃)log𝑢+𝜃log𝑣=log(𝑢1𝜃𝑣𝜃)

となる.ふたたび対数の値の大小からもとの数の大小に移してであり,だから主張を得る.

形式化上の注記. 補題 11.5.4 の第の主張に対応する宣言は min_le_rpow_mul_rpow (InformationTheory/Shannon/Chernoff/Basic.lean) である.そちらは本文とは道筋が違い,最小値そのもののべき乗を経由して直接示している.第の主張に対応する本プロジェクトの宣言は無い.Mathlib には点版が Real.geom_mean_le_arith_mean2_weighted,有限個の項の版が Real.geom_mean_le_arith_mean_weighted としてあり,形式化は後者を別の箇所で使っている.

補題 11.5.5. を空でない有限アルファベット,𝑃上の全点で正の分布,𝑃𝑛をそれぞれの重の積分布とし,𝑛 1とする.べき乗を 定義 11.5.2定義 11.5.3 のとおりとすると

𝑥X𝑛𝑃𝑛({𝑥})1𝜆𝑄𝑛({𝑥})𝜆=Z(𝜆)𝑛

である.

証明. 有限個の正の数の積のべき乗は,べき乗の積である(両辺の対数をとると,どちらも指数と各因子の対数の積の和になる).は全点で正だからの因子はどれも正で,この規則が使えて

𝑃𝑛({𝑥})1𝜆𝑄𝑛({𝑥})𝜆=𝑛1𝑖=0𝑃(𝑥𝑖)1𝜆𝑄(𝑥𝑖)𝜆

である.これをについて足す.分配法則を回使うと(についての帰納法),座標ごとに独立に和をとった形になり

𝑥X𝑛 𝑛1𝑖=0𝑃(𝑥𝑖)1𝜆𝑄(𝑥𝑖)𝜆=𝑛1𝑖=0 𝑎X𝑃(𝑎)1𝜆𝑄(𝑎)𝜆=Z(𝜆)𝑛

を得る.

形式化: sum_prod_rpow_eq_Z_pow (ソース)

Chernoff 限界

定理 11.5.6(Chernoff 限界). を空でない有限アルファベット,𝑃上の全点で正の分布とし,𝑛 1とする.定義 11.5.1定義 11.5.3 のとおりとすると

𝑃(𝑛)𝑒12Z(𝜆)𝑛

である.

証明. 定義 11.5.1 の各項に 補題 11.5.4 の第の主張を,𝑢 :=𝑃𝑛({𝑥})𝑣 :=𝑄𝑛({𝑥}),重みをとして当てると

min(𝑃𝑛({𝑥}),𝑄𝑛({𝑥}))𝑃𝑛({𝑥})1𝜆𝑄𝑛({𝑥})𝜆

である.について足し,補題 11.5.5 を当てると右辺の和はになる.両辺にを掛ければ主張を得る.

形式化: bayesErrorMinPmf_le_half_Z_pow (ソース)

この不等式はどのでも成り立つから,いちばんよいを選んでよい.だから,選ぶべきはを最小にするであり,そのときの上界の指数が 定義 11.5.3である.その最小値が実際に達成されることを次に確かめる.そこで最大値定理を借りる.

Weierstrass の最大値定理を借りる. 借りるのは「有限次元の実ベクトル空間の空でない有界閉集合の上の実数値連続関数は最大値をとる」という形である.直接当てる相手は二つで,一つは閉区間の上の実数値関数命題 11.5.7),もう一つは,実ベクトル空間の部分集合である確率単体の閉部分集合の上の実数値関数11.6 節定理 11.6.2)である.第6章 6.1 節が通信路容量の達成(定理 6.1.5)のために,第9章 9.1 節がレート歪み関数の下限が最小値であること(命題 9.1.8)のために借りたのと同じ定理である.本書はこの最大値定理を証明しないが,形式化されていないわけではない.定理 11.6.2 の形式化は,Mathlib にある無条件の機械検証済みのこの定理をそのまま呼び出しているからである.

以下,微積分の計算規則(一次結合・積・商・合成・有限和が連続性と微分可能性を保つこと,和の法則・積の法則・商の法則・合成関数の微分の法則,本章の底のもとでの,微分係数が差分商の極限であり極限が広義の不等号を保つこと)は既知とする.

命題 11.5.7. を空でない有限アルファベット,𝑃上の全点で正の分布とし,Z定義 11.5.3 のとおりとする.このときである.またの上で連続かつ凸であり,の上で最小値をとる.とくに 定義 11.5.3 の下限は最小値として達成され,である.

証明. 両端の値から見る.定義 11.5.2 よりだからであり,同じくである.

連続性を見る.は全点で正だから,定義 11.5.2 と指数法則より

𝑃(𝑎)1𝜆𝑄(𝑎)𝜆=𝑃(𝑎)exp(𝜆log𝑄(𝑎)𝑃(𝑎))

である.右辺は次式に指数関数を合成したものに定数を掛けたもので,はその有限和だから,微積分の計算規則よりは連続である.だから,との合成もふたたび連続である.

凸性に移る.は上の書き換えのとおり指数関数の重み付き和だから,第10章 命題 10.4.2 が凸性を示した対数分配関数と同じ形をしている.ただし第10章の示し方(階導関数が分散に等しいので非負であること)に使う判定法を本節は借りていないので,以下は 補題 11.5.4 の第の主張を当てて,点についての不等式として直接確かめる.𝜆の数,とし,各文字についてと置く.どちらも正で,について足すとである.指数法則から

(𝑐𝑎Z(𝜆))1𝜃(𝑑𝑎Z(𝜆))𝜃=𝑃(𝑎)1((1𝜃)𝜆+𝜃𝜆)𝑄(𝑎)(1𝜃)𝜆+𝜃𝜆Z(𝜆)1𝜃Z(𝜆)𝜃

である.左辺に 補題 11.5.4 の第の主張を当て,について足すと,の総和もの総和もだから

𝑎(𝑐𝑎Z(𝜆))1𝜃(𝑑𝑎Z(𝜆))𝜃𝑎((1𝜃)𝑐𝑎Z(𝜆)+𝜃𝑑𝑎Z(𝜆))=1

である.右辺の式と見比べると,これは

Z((1𝜃)𝜆+𝜃𝜆)Z(𝜆)1𝜃Z(𝜆)𝜃

と同じことである.両辺は正だから,対数をとってを得る.これが凸性である.

最小値の存在に移る.の空でない有界閉集合で,はその上で連続だから,借りた Weierstrass の最大値定理よりで最大値をとる.すなわちで最小値をとり,定義 11.5.3 の下限はその最小値である.最後に,最小値は以下だから,符号を変えてである.

形式化上の注記. 命題 11.5.7 の内容は,形式化ではそれぞれ別の宣言になっている.chernoffZSum_lam_zerochernoffZSum_lam_one,連続性は chernoffLogZ_continuous,凸性は convexOn_chernoffLogZ,最小値が達成されることは chernoffInfo_attained,非負性は chernoffInfo_nonneg(どれも InformationTheory/Shannon/Chernoff/Basic.lean)である.ただし連続性の宣言が述べるのは全体での連続性で,本文のの上の連続性より広い.これらを一つにまとめた形の単独の宣言は無い.

系 11.5.8(Chernoff 限界の達成可能性). を空でない有限アルファベット,𝑃上の全点で正の分布とし,定義 11.5.1定義 11.5.3 のとおりとすると

liminf𝑛(1𝑛log𝑃(𝑛)𝑒)𝐶(𝑃,𝑄)

である.

証明. まずを見る.は全点で正だから,どのでもは正で,その小さいほうも正である.は空でないから,定義 11.5.1 の和は正の数の和で正である.

命題 11.5.7 よりで最小値をとる.それを与えるを一つとるとであり,定理 11.5.6 より

𝑃(𝑛)𝑒12Z(𝜆)𝑛=12𝑒𝑛𝐶(𝑃,𝑄)

である.両辺は正で,対数は単調だから,対数をとってで割ると

1𝑛log𝑃(𝑛)𝑒𝐶(𝑃,𝑄)+log2𝑛𝐶(𝑃,𝑄)

である.どのでもこれが成り立つから,下極限も以上である.

形式化: chernoff_lemma_achievability (ソース)

指数がに届くことは,これで分かった.残るのはそれを超えないことである.超えないことを示すには誤り確率を下から抑えなければならず,そのためにを分母にして作る分布を導入する.

中間分布

定義 11.5.9(Chernoff の中間分布). を空でない有限アルファベット,𝑃上の全点で正の分布とし,べき乗を 定義 11.5.2定義 11.5.3 のとおりとする.実数に対し

𝑃𝜆(𝑎):=𝑃(𝑎)1𝜆𝑄(𝑎)𝜆Z(𝜆)(𝑎X)

で定まる上の関数を Chernoff の中間分布 と呼ぶ.分子は正で,について足したものが分母だから,上の全点で正の分布である.

形式化: chernoffMediatorchernoffMediator_poschernoffMediator_sum_eq_one (ソース)

両端の値を見ておく.からへ動かすとからへ移る,というのが次の命題である.

命題 11.5.10. を空でない有限アルファベット,𝑃上の全点で正の分布とし,定義 11.5.9 のとおりとするとかつである.

証明. 命題 11.5.7 よりである.定義 11.5.2 より,どの文字でもだから,定義 11.5.9 よりである.同じくだからである.

形式化: chernoffMediator_lam_zerochernoffMediator_lam_one (ソース)

移り方は各点での値を幾何的に混ぜるもので,二つの分布を線分で結ぶ混ぜ方とは別である.定義 11.5.2 と指数法則からである.すなわちは,の各点の値に指数の重みを掛けて総和がになるように割ったものであり,この作り方は大偏差論で指数傾斜と呼ばれる.

この中間分布が,次の命題で Chernoff 情報に意味を与える.

命題 11.5.11. を空でない有限アルファベット,𝑃上の全点で正の分布とし,Z定義 11.5.3定義 11.5.9 のとおりとする.このときの上で微分可能で,どの実数でもその導関数は

𝑑𝑑𝜆logZ(𝜆)=𝑎X𝑃𝜆(𝑎)log𝑄(𝑎)𝑃(𝑎)

である.さらに,上の最小値を与えるが開区間に属するならば,この和はになり

𝐶(𝑃,𝑄)=𝐷(𝑃𝜆𝑃)=𝐷(𝑃𝜆𝑄)

である(1.6 節の相対エントロピー).

証明. は全点で正だから,定義 11.5.2 と指数法則よりである.は正だからに依らない有限な数である.微積分の計算規則より,次式と指数関数の合成は微分可能で,についての導関数は同じ関数にを掛けたものである.有限和も微分可能だから

Z(𝜆)=𝑎𝑃(𝑎)exp(𝜆log𝑄(𝑎)𝑃(𝑎))log𝑄(𝑎)𝑃(𝑎)

である.だから,合成関数の微分の法則とよりも微分可能で,その導関数はである.各項をで割ると 定義 11.5.9になるから,導関数は主張の和に等しい.

後半に移る.上の最小値を与えるとし,の導関数をで評価する.を満たす実数をとるとだからであり,差分商は非負である.に近づけると,微積分の計算規則より差分商の極限はでの微分係数であり,極限は広義の不等号を保つから,微分係数は非負である.同じことをで行うと,分子は非負で分母が負だから差分商は非正であり,微分係数は非正である.よって微分係数は,すなわち前半の和はになる.

最後に二つの相対エントロピーを計算する.定義 11.5.9 と指数法則から

𝑃𝜆(𝑎)𝑃(𝑎)=1Z(𝜆)exp(𝜆log𝑄(𝑎)𝑃(𝑎)),𝑃𝜆(𝑎)𝑄(𝑎)=1Z(𝜆)exp((1𝜆)log𝑄(𝑎)𝑃(𝑎))

である.対数をとってを掛け,について足すと,1.6 節の相対エントロピーの定義との総和がであることから

𝐷(𝑃𝜆𝑃)=𝜆𝑎𝑃𝜆(𝑎)log𝑄(𝑎)𝑃(𝑎)logZ(𝜆),𝐷(𝑃𝜆𝑄)=(1𝜆)𝑎𝑃𝜆(𝑎)log𝑄(𝑎)𝑃(𝑎)logZ(𝜆)

である.では和がだから,どちらもに等しい.は最小値を与えるので,定義 11.5.3 よりである.

形式化上の注記. 導関数の式は chernoffLogZ_hasDerivAt,最小値を与えるで和がになることは chernoffMediator_balanceが中間分布からへの相対エントロピーに等しいことは chernoffInfo_eq_mediator_div(どれも InformationTheory/Shannon/Chernoff/Converse.lean)である.ただし三つの主張を束ねた単独の宣言は無く,のほうに対応する宣言も無い.

等式は,Chernoff 情報の読み方を与える.からへ動かすと中間分布はからへ移る(命題 11.5.10)から,両端では二つの隔たりの一方がになる.ではからの隔たりがからの隔たりがではからの隔たりがからの隔たりがである.中間分布のうちからの隔たりとからの隔たりが等しくなる点がとれるとき,その共通の値が Chernoff 情報である.二つの分布のちょうど中ほどまでの距離だ,と読みたくなるが,相対エントロピーは距離ではない(1.6 節)ので,そう読むのは言い過ぎである.言えるのは,二つの隔たりが釣り合う点での値だということである.

この等式が使えるのは,最小値を与えるが端点でないときだった.その条件は,が違う分布でありさえすれば満たされる.

命題 11.5.12. を空でない有限アルファベット,𝑃上の全点で正の分布とし,定義 11.5.3 のとおりとする.ならば,上の最小値を与える実数はすべて開区間に属する.

証明. まず両端での微分係数の符号を見る.命題 11.5.11 の導関数の式に 命題 11.5.10 を当てると,だからでの微分係数はであり,だからでの微分係数はである(1.6 節の相対エントロピー).だから 定理 1.6.1 よりどちらの相対エントロピーも正で,での微分係数は負,での微分係数は正である.

最小値を与えるだったとする.についてだから差分商は非負であり,に近づけると,微積分の計算規則より極限はでの微分係数だから,それが非負となって上に反する.最小値を与えるだったときも同じで,について差分商をとると,分子は非負で分母は負だから差分商は非正であり,での微分係数が非正となって,やはり上に反する.よって最小値を与えるに属する.

形式化上の注記. 命題 11.5.12 に対応する宣言は無い.形式化は,最小値を与えるが開区間に属することを仮定として受け取る形をとっており,それがから出ることは述べていない.

定理 11.5.13(Chernoff 限界の逆). を空でない有限アルファベット,𝑃上の全点で正の分布とし,定義 11.5.1Z定義 11.5.3定義 11.5.9 のとおりとする.上の最小値を与えるが開区間に属するならば

limsup𝑛(1𝑛log𝑃(𝑛)𝑒)𝐶(𝑃,𝑄)

である.

証明. と置く.定義 11.5.9 より上の全点で正の分布であり,命題 11.5.11 よりである.

に近い型を作る.は空でないから文字を一つ選び,を端数の引き受け手とするの丸め型(定義 11.3.4)とする.補題 11.3.5 より,どのでもは長さの型であり,どの文字でもである.

型類の中の確率で誤り確率を下から抑える.命題 11.1.4 より,のどの点でもは同じ値をとり,も同じ値をとる.したがってその小さいほうもに依らず,にわたる和は要素数にその値を掛けたものである.要素数は非負だから,これはの小さいほうに等しい.定義 11.5.1 の和のほかの項は非負だから

𝑃(𝑛)𝑒12min(𝑃𝑛(T𝑛(˜𝑃𝑛)), 𝑄𝑛(T𝑛(˜𝑃𝑛)))

である.右辺は正だから,対数をとってを掛けると,不等号の向きが変わって

1𝑛log𝑃(𝑛)𝑒log2𝑛+max(1𝑛log𝑃𝑛(T𝑛(˜𝑃𝑛)), 1𝑛log𝑄𝑛(T𝑛(˜𝑃𝑛)))

である(最小値の対数の符号を変えると,符号を変えた二つの対数の最大値になる).

は長さの型で各文字でに収束するから,系 11.2.3 を,参照する分布としてをとって当てるとであり,をとって当てるとである.二つの極限はどちらもに等しい.よってどのについても,十分大きいでは右辺の最大値の中の二つがともに未満であり,未満である.したがって上極限は以下であり,は任意だから以下である.

形式化: chernoff_converse (ソース)

系 11.5.8定理 11.5.13 を合わせると,最小値を与えるが内点にとれるときにはに収束する.命題 11.5.12 より,でありさえすればこの条件は満たされる.次の例では,具体的な分布について最小値を与えるがただ一つであることまで確かめ,収束先の値を数で求める.

数値で見る

例 11.5.14(二値の Chernoff 情報). とし,𝑃(1) =0.9で定まる分布とする.定義 11.5.1Z定義 11.5.3定義 11.5.9 のとおりとすると,次の四つが成り立つ.

  1. どの実数についてもである.
  2. 上の最小値を与えるはただ一つで,開区間に属する.それをと書くと,の値は約の値は約である.
  3. の値は約ナットである.いっぽうの値は約ナット,の値は約ナットで,はどちらよりも小さい(1.6 節の相対エントロピー).
  4. 1𝑛log𝑃(𝑛)𝑒 𝐶(𝑃,𝑄)𝑛 )である.

証明.

  1. はどちらの文字でも同じだからであり,これを 定義 11.5.3 の和からくくり出せばよい.

  2. 命題 11.5.7 よりで最小値をとる.それを与えるを一つとる.だから 命題 11.5.12 よりこのに属し,命題 11.5.11 よりそこで微分係数はである.その微分係数を書き下す.log𝑄(0)𝑃(0) =log5だから,命題 11.5.11 の導関数の式より,での微分係数はである.を使うと,これは

log59+𝑃𝜆(0)log9

に等しい.

微分係数がについて狭義単調増加であることを見る.上の式とより,が狭義単調増加であることを見れば足りる.より

𝑃𝜆(1)𝑃𝜆(0)=𝑃(1)1𝜆𝑄(1)𝜆𝑃(0)1𝜆𝑄(0)𝜆=91𝜆=𝑒(1𝜆)log9

であり,だからである.指数関数は狭義単調増加だから(が狭義単調増加であることとから出る),について狭義単調減少で,正の数の逆数をとると向きが変わるからは狭義単調増加である.よって微分係数も狭義単調増加で,それがになるは高々一つである.最小値を与えるはすべてに属して微分係数をにするのだから,そのようなはただ一つであり,これをと書く.

数値に移る.微分係数がになることは,上の式よりと同じだから

𝑃𝜆(0)=log9log5log9=2.197221.609432.19722=0.26751

である.またについて解くとであり,対数をとって,すなわちである.

  1. 命題 11.5.11 よりであり,補題 11.2.5 より,これはに等しい(例 1.1.2 の二値エントロピー関数).第の主張の値を入れるとだからである.次に 補題 11.2.5 よりである.いっぽう 1.6 節の定義から
𝐷(𝑄𝑃)=12log0.50.1+12log0.50.9=12(log5+log59)=12(1.609430.58778)=0.51082

である.はどちらよりも小さい.

  1. はどちらも全点で正だから 系 11.5.8 より下極限は以上であり,第の主張よりに属するから 定理 11.5.13 より上極限は以下である.よってこの数列は収束し,極限はである.

形式化上の注記. 例 11.5.14 の数値に対応する宣言は無い.形式化には,具体的な分布を入れて Chernoff 情報を計算した実例が置かれていない.

この例 11.2.6 と同じ偏ったコインである.例 11.5.14 の数を並べると,Bayes 誤り確率の指数は,第二種の誤りの指数を下から押さえた値系 11.4.7)より小さい.この例では,二つの誤りを同時に小さくすることを求めると,片方だけを見たときの速さは出ないということである.二つの立て方の間には,第一種の誤りにも指数を課すという中間の立て方がある.次節はそれを扱う.そこで現れる関数は,第一種の誤りに課す指数がのときをとり(命題 11.6.7),例 11.6.10 ではもその関数の値として現れる.

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